砂の棺 if 叶わなかった未来の物語 「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。 北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。 |
6 朝日がカーテンの隙間から差し込んでくる。カルザスは眩しげに片手を目元に翳そうとして、その手が動かないことに気付いた。 驚いて左腕を見ると、カルザスの腕を枕にして、レニーがすうすうと寝息を立てている。 中性的な顔立ちは、髪を短くしても、カルザスの心をざわつかせるには充分な魅力をそなえていた。つまり──姿を偽っていなくとも、黙ってさえいれば、まだ女性に見えないこともない。 「あ、あの……レニーさん? どうして僕のベッドで寝てるんですか?」 朝の弱いレニーだ。その程度の呼びかけで起きる気配は一切ない。 カルザスは自由な右手で、彼の肩を掴んで乱暴に揺り動かした。 「レニーさん? レニーさん! 状況説明をお願いします」 「んー……もちっと寝かせろ……ねむ……」 まだ意識が朦朧としているらしい。レニーが再び夢想の世界へ戻ろうとする。 「レニーさん!」 カルザスが声を荒らげると、レニーはようやくうっすらと目を開いた。そしてそのまま仏頂面になる。 「レニーさん、この状況。どういうことですか?」 「……ん……覚えてねぇの?」 レニーがようやく体を起こし、目元を擦った。そしてすぅっと小さく深呼吸し、開口一番、カルザスに罵声を浴びせた。 「このスットコドッコイが!」 「はい?」 レニーが半眼のまま、カルザスの胸ぐらを掴む。 「昨夜《ゆうべ》、酔っぱらいに襲われたんだよねー、おれ」 「ええっ? ま、まさかそのかたを、勢いで返り討ちにしちゃったとか……」 「莫迦じゃねぇの、あんた! その頭、捻り潰してやろうか?」 「なぜ僕が責められるんですか?」 レニーは掴んでいた彼の胸ぐらを離し、両腕を組んで横目で睨んだ。起き抜けに大声を出したことで、普段より早く覚醒できたらしい。 「……本当に覚えてねぇの? あんた、ベロベロに泥酔して、おれとホリィを取り違えたみたいに、『ホリィさんホリィさん』とかほざきながら、おれを襲ったんだよ。そりゃおれの機嫌も悪くなるよな。自分の彼女とおれを見間違うもんか? フツー。で、さすがに身の危険を感じたんで、あんたを殴って気絶させた」 「すみませんでしたあああ!」 勢い良く、カルザスがベッドの上で土下座する。 「あんたさぁ。酒やめた方がいいんじゃねぇの?」 「やめます! 金輪際やめます! 誓います!」 額をベッドに擦り付けたカルザスの後頭部を見ながら、レニーはぷうっと頬を膨らませた。 「まさか今になってまた、男に迫られるとは思っちゃいなかったよ。街とか前の店でのナンパより|性質《たち》悪い。もう勘弁してくれよな」 「本当に申し訳ありません!」 「ホリィには黙っといてやるけど、これ。貸し、ひとつな」 「はいいい!」 レニーにとんでもない弱みを握られ、カルザスはひたすら彼に侘び続けた。 「……ったく……なんでホリィとの約束守らせる前に、おれがこの朴念仁にキスされなきゃなんないんだよ……ホリィに悟られたらおれもろとも終わりじゃん……ああ、怖えよ、ったく……」 モゴモゴと口の中で悪態を吐きつつ、レニーは不機嫌そのものといった様子で寝室を出ていった。 |
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