砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     3

 パルと散々遊んでやったあと、帰らないでとぐずる彼に引き止められ、ホリィアンに誘われる形で、夕食をアイル家でご馳走になることとなった。
「すみません。初日からこんなにお世話になってしまって」
「ははは。しばらくパルにはワガママを言わせてやりたいから構わない。夕食会のやり直しみたいなものだから、楽にしてほしい。ああ……そうそう。うちの料理に毒は入ってないから安心してくれたまえ」
 マクソンの冗談に、思わず笑ってしまったカルザスとレニー。一人だけ重体となった羞恥心で、赤くなって俯くホリィアン。会食は和やかに開始された。
 マクソンとアイシーは、彼らなりに、パルのことを実の息子として可愛がる気なのだろう。そして彼の心を癒やしてやるには、レニーの存在が不可欠だと考えているらしい。パルが今、もっとも心を許しているのは、レニーだけなのだから。
 口のまわりをソースでベタベタに汚しながら、パスタを頬張るパルだが、どうも先ほどからもぞもぞと何度も椅子に座り直している。レニーはその様子に気付き、パルの口をナフキンで拭ってやってから彼の椅子を引いた。
「すみません。パルは恥ずかしがって言わないみたいですけど、傷が疼いてるみたいなので、ちょっと中座します」
「レニー君に任せて大丈夫か? 医者を呼ぼうか?」
「あっ、レニーさんなら大丈夫ですよね? お薬には詳しいですし」
「そうだったね。ではパルを頼む」
 ホリィアンの助言もあって、レニーはパルを食事の席から連れ出した。そして二階奥にある、彼の部屋へと向かう。
「……いたいいたいの、レニーどうしてわかったの?」
「パルのことなら何でも分かるよ」
 彼のズボンを脱がせ、レニーはベッド脇にあるサイドボードに置いてあった軟膏を手にする。
「パルの怪我はちょっと治りにくい怪我だから、あんまり我慢しちゃダメなんだ。明日からは痛くなったら、すぐにおれかホリィに言うんだぞ」
「うん……」
 ペドフィリアのフィックスに犯され傷付けられた箇所に軟膏を塗ってやりながら、レニーは過去に経験した自分のことを思い出す。
「おれの時は七歳だったけど、パルはまだそれより三つも小さいんだよな……」
 大人の男に強姦されたとは、彼は理解していないだろう。ただ、痛くて気持ち悪いことをされたとだけ、認識しているはずだ。
 体の傷は薬で治るが、心の傷はなかなか消えはしない。しかし出来る限り自らの手で癒やしてやりたいと思う。
「ほい、終わり。自分でズボン履けるな?」
「うん!」
 パルは自分でオーバーオールを履き直し、元気よくベッドからストンと降りた。瞬間、じわっと涙を浮かべる。傷口に響いたらしい。
「今のは飛び降りたパルが悪い。ほら、泣くな。ホリィが心配するぞ」
「うん……なかない」
 パルはレニーの腕にしがみついた。
「さて、晩飯の続きな。一人で歩けるか?」
「だっこ!」
「甘ったれめ」
 苦笑しつつ、レニーはパルの体を抱き上げた。


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