砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     2

 昼休憩の鐘が鳴り、母屋で昼食をもらってくるように指示された。食事係は新入りの仕事らしい。
「事務所には僕達以外は三名、営業で外回りされている方が十名でしたよね?」
「顔と名前、お互い早く覚えないとね。ま、おれはその辺、得意だから大丈夫だけど」
「ふふっ。僕は帳簿の見かたはもう覚えました。僕とレニーさん、得意分野もまるで逆ですからね」
 母屋、つまりアイル邸のキッチンには、ホリィアンと数名のメイドがいた。
「カルザスさん、お仕事はどうですか?」
「はい。なんとかなりそうです」
「おれはまだ緊張してっけどね」
「うふふっ。早く慣れてくださいね。これ、皆さんのお昼ご飯です。営業さんの分は入ってません。皆さん、外で済まされていらっしゃるので」
 男所帯の食事だ。カルザスたちを入れて五名分とはいえ、相当な量がある。カルザスとレニーは、スープの入った大鍋と巨大なバスケットを手分けして事務所へ運んだ。
 その途中、曲がり角から小さなものが突進してくる。
「レニー!」
「うわっと!」
 バスケットを取り落としそうになりながら、なんとか踏み留まる。
 案の定、パルだった。
「こらパルー。お前ホント悪戯っ子だな」
「パルもてつだうー! だからあそんでー!」
「重いからパルには無理。それにまだ仕事中なの。ほら、ホリィと遊んでもらいな。夕方、仕事終わってから遊んでやるから」
「ほんと? レニーあそんでくれる?」
「ああ、約束な」
「わーい! じゃあパル、おねえちゃんのところにいってくるー!」
 レニーがいることで、パルは以前のように愛らしくはしゃぎまわっているが、やはりどこか、大人への恐怖心が残ってしまったらしい。カルザスや他の者達にふいに声を掛けられると、ビクリと体を強張らせ、怯えたような眼差しになるのだ。
「相変わらず、パルさんにデレデレですね」
「なんか文句ある? あんだけ懐いてくれて、あんだけ可愛いんだぜ? そりゃ顔も崩れるよ」
「はぁ……確かにパルさんは可愛いですが、レニーさんの愛情は相当ですね」
「大丈夫、こっちのことは気にすんな。カルザスさんの相手は、手が空いた時に適当にしてやっから」
「うわぁ。なんかもう、僕なんてどうでもいい発言ですね。あれだけ、頼りにしてるっておっしゃっていたのに」
「ああ、それね。なんかもう、適当でいいよ?」
「わあ僕フラれたんですね。ショックです」
 二人は顔を見合わせ、あははと笑い合った。
「さ、早く事務所に戻りましょう」
「了解」
 カルザスとレニーは急いで事務所へと戻った。


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