砂の棺 if 叶わなかった未来の物語 「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。 北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。 |
7 澄んだ鐘の音が聞こえる。レニーが見上げると、そこにはウラウローのスラムに設立された教会の鐘楼があった。 「ここは……じゃあ……」 レニーは周囲をきょろきょろと見回し、心に思い描いた人影を探す。予想通り、彼の最も愛すべき少女が教会の入り口で静かに佇んでいた。 優しく口元を緩め、レニーは彼女の隣に立つ。無言のまま、鐘の音を聞く。毎日同じ時を告げる鐘の音を。 「大切な人ができたんですね」 「……うん」 シーアの言葉が何を指しているのかすぐに分かった。 「パルが愛しいと思う。だけどお前やセルトを忘れた訳じゃないからな」 「ええ」 シーアがレニーを見上げて微かに目を細める。 「セルトが生きてたら、あんな感じだったのかな?」 「そうですね。そうかもしれません」 「今はいないのか?」 「いますよ」 シーアがレニーの手を取って、自らの腹部に当てる。 「シーアとセルトは、いつでもおれの傍にいてくれるんだな。嬉しいよ」 心から、そう思う。だが今、彼の気持ちは上の空だ。 「はい。だってあたしが愛した最初で最後の人ですから」 「ありがとう、シーア」 「はい」 レニーは満足そうに頷き、鐘楼を見上げた。 「また来るよ。いや違うな。また来てくれ」 「はい」 シーアははにかむように笑い、頷いた。 「……大事にしてあげてください」 「そうしたいけど、もう……会えないんだ」 「会えますよ。心から、願っていれば」 「……シーア」 「あたしを信じてください。あたしは嘘を言いません」 「ああ。またパルに会いたいと、心から願っておくよ。シーアが言うなら……間違いない」 「はい」 彼女が頷くと、再び教会の鐘が鳴った。 |
8-6|top|8-8 |