砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     8

 いつまで経っても戻ってこないレニーの様子を見に、カルザスとホリィアンは寝室へと向かった。するとそこには、すやすやと眠るパルの傍で、同じように静かな寝息をたてているレニーがいた。
「寝ちゃってますね」
 カルザスは小声で傍らのホリィアンに囁きかけた。
「パルも幸せそうですけど、レニーさんもすごく穏やかなお顔で眠っていらっしゃいますね」
「ええ。本当に無防備にお休みになってます」
 〝兄〟は目を細めて〝弟〟の寝顔を見つめる。
「僕と二人だけの時でも、レニーさんがこんな表情でいることなんて、ほとんどないんですよ」
「やっぱりずっと神経を張り詰めているんですか?」
「そうかもしれません。レニーさんが本当に心から落ち着かれる日はないのかもしれないですから」
 ホリィアンは改めて彼の境遇を不憫に思う。
「何もかも捨ててきたって仰ってましたけど……自分の過去はどんなに努力しても変わらないんですよね」
 心優しい少女が眠り込んだ元詩人に近付こうとすると、褐色の元傭兵が引き止めた。
「あまり近付くと起きちゃいますよ。レニーさん、朝は弱いですけど、こういう時には過敏過ぎるほど敏感なので」
「じゃあもう少し、休ませてあげた方がいいですね」
「ええ。僕たちは向こうへ行っていましょう」
 カルザスはホリィアンを伴って寝室のドアをそっと閉めた。
「まだ店を開けるまで時間はありますから、お話でもしていますか?」
「はい。あ、でも何の話を?」
「そうですね……ホリィさんの昔話でも。あなたのことが知りたいです」
「はい、分かりました」
 ホリィアンはにこりと微笑み、二人でキッチンへと戻った。


     7-7top7-9