砂の棺 if 叶わなかった未来の物語 「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。 北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。 |
6 四人の食事が進む内、レニーはふと、膝の上のパルの行動に疑問を抱いた。 レニーに自分が作ったサンドイッチを何度も勧めてくるのだが、彼自身は一切食べようとしないのだ。だが、ホリィアンの作ったミートパイは口の周りをベタベタに汚してまで食べている。マッシュポテトも口にしていない。 「パル。お前おれにばっか食わせて、なんで自分はサンドイッチ食わないの?」 レニーが疑問を口にすると、パルは露骨に体を強張らせた。そして唇を尖らせる。 「パ、パルおなかすいてないもん……」 「嘘つけ。ミートパイばっかガツガツ食ってるじゃん」 「ほんとだもん!」 「パル」 ホリィアンが嘆息しながら、パルの名を呼ぶ。 「レニーさんが心配してるでしょ。正直に言いなさい。野菜が嫌いなんですって」 「偏食か」 「そうなんです」 膝の上の幼児の口元についた、ミートパイの汚れを拭いてやりながら問いかける。 「嫌いなのか、野菜?」 「……うう……きらい……」 「お昼ご飯を作るって言った時に、最初は自分の好きなハムやベーコンばかり挟もうとしたんです。レニーさんはお肉が食べられないからって何度も言い聞かせて、やっと葉野菜とチーズのサンドイッチに落ち着いたんですよ。だから自分では食べないんです」 ホリィアンは苦笑しながら裏話を暴露した。 「……レニー……パル、わるいこ? やさいたべないとだめ?」 「あー……えーと……」 「好き嫌いは良くないですね。これはちゃんと言い聞かせて教育しないといけませんよねぇ? 食育は大切です」 カルザスが笑いを堪えながら口を挟む。レニーはムッとして彼を睨んだ。 「おれが言っても説得力ないってのを分かってそういうこと言う?」 レニーはくしゃくしゃと髪を掻き乱し、小さく唸った。 「あー、パル。あのな。パルは悪い子じゃないけど、とりあえずちょっとでいいから野菜は食っとけ。おれも努力するから」 そう言い、レニーはミートパイの一切れを手掴みで口元へと持っていった。そして意を決したようにかぶり付く。 「あっ、無理なさらなくても……」 「パルに食えって言った手前、引くに引けないだろうが」 「ホリィさん、大丈夫ですよ。レニーさんはとても意地っ張りですから」 「うっせぇ!」 パルは不思議そうにレニーを見つめた。 「レニー、おにくきらいなの?」 「嫌いとはちょっと違うんだけど、沢山は食べられないんだ。でもおれも食ったから、パルも食えるよな?」 「……いっこだけでいい?」 「ああ。一つから始めような」 パルはサンドイッチに手を伸ばし、恐る恐るはみ出した葉野菜を噛んだ。 「パル。レニーさんが見てるわよ」 「うー……」 葉野菜だけを引っ張り出し、もぐもぐと咀嚼する。まだパンの隙間に残る赤い果肉の野菜を見つつ、不安そうにレニーを見上げた。 「おいしくない……でもたべたよ?」 「うん。ちょっと食えたよな。えらいえらい」 レニーは微笑んでパルの頭を撫でてやった。すると彼は、はにかむようにえへへと笑う。努力が認められて恥ずかしくも誇らしいのだ。 「ホリィのミートパイ。ソースの味は嫌いじゃないんだけど、でもおれやっぱ肉類は極力遠慮だわ。食感とか脂《あぶら》がダメなのかねぇ?」 「でもパルさんに格好は付けられましたよね」 「すごい前進です。今までどんなに言い聞かせても、一口も食べなかったんですよ」 ホリィアンが目を細めて嬉しそうに両手を叩いている。〝姉〟として、パルの成長ぶりが純粋に嬉しいのだろう。 「むぐ……ぜんぶたべた。パルいいこ?」 どうやら先程残していた、赤い果肉の野菜をも、我慢して食べたらしい。 「うん。いい子だよ。よくがんばった。えらいぞ」 「えへへ」 パルはひと仕事終えたかのように、満足そうな顔をしている。 「よし、じゃあついでにも一個食っちまおうか。パルの作ったやつがちょうどもう一切れ残ってるし」 「やーのー!」 あははと笑いながら、四人の昼食の時間は和やかにゆったりと進んでいった。 |
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