砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     5

 野菜とチーズのサンドイッチの周囲には、ミートパイやマッシュポテトのサラダなどが並べられている。普段、接客の空き時間の隙にさっと作る手抜きの昼食に比べれば、遥かに豪盛な昼食だった。
 いつもの三人の定席に、今日は一つ余分に簡易椅子を出している。もちろんパルの分だ。
 だがパルはその席には座らず、レニーの膝の上にちょこんと座っていた。
「パル。レニーさんのお膝に座ってたら、レニーさんが重いし食事をしにくいでしょ。ちゃんと椅子に座りなさい」
「やっ! パルここがいいの!」
 幼児特有のワガママで、パルはレニーにしがみ付く。レニーは苦笑してホリィアンを宥めた。
「ホリィ、いいよ。どうせそっち座らせても、事あるごとにおれに絡んでくるだろうし」
 すっかりパルの性格を見抜いているレニーは、彼が膝の上から落ちないように、その小さな体に腕を回して抱え直した。
「すみません、レニーさん。パルはここまでワガママじゃなかったんですけど……」
「仲良しさんでいいじゃないですか」
「カルザスさん。ガキって意外と重いんだぜ。今夜寝てる時に、腹の上にパルと同じ重さの石でも置いてやろうか?」
「わざわざお手間をお掛けするのも申し訳ないので、遠慮しておきますね」
 カルザスはさらりと笑顔で受け流し、グラスに冷やした香茶を注いで回った。
「ねー、レニー。これパルがつくったの! たべて!」
 パルが少し中身の溢れたサンドイッチを差し出してくる。その崩れ方はたしかに、不器用な幼児が作ったものであることを明確に示していた。
「あっ、形は悪いですけど、仕上げはわたしがしましたから大丈夫ですよ!」
 ホリィアンが慌ててフォローする。
 レニーはパルの手からサンドイッチを受け取り、パクリと頬張った。パルがワクワクしたような表情で、レニーの感想を待っている。
「うん、美味いよパル」
「わーい!」
 パルが嬉しそうにはしゃぎ、小さな手を叩く。レニーは手にしていたサンドイッチの残りを口に放り込んだ。
「レニーさんはミートパイは苦手ですよね? マッシュポテトにも少し香味付けのためのベーコンが入ってるんですけど、大丈夫ですか?」
「少しくらいなら平気だよ」
 カルザスにミートパイを切り分け、ホリィアンはマッシュポテトのサラダを小皿に取り分けてレニーに差し出す。
 彼女のミートパイをフォークで一口大にすくい取り、カルザスはそれを口へと運ぶ。
「美味しいですよ、ホリィさん」
「良かった! どんどん食べてくださいね」
 ホリィアンは嬉しそうに、二人の男達に手作りの昼食を勧めた。


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