砂の棺 if 叶わなかった未来の物語 「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。 北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。 |
天使と宝物 1 ホリィアンとの今後のことも踏まえ、マクソンの経営する商会へ雇ってもらえないかと、カルザスが彼に恐縮しつつ頼み込んでから、三日が過ぎた。そして今日、マクソンから直々に呼び出され、カルザスとレニーはアイル邸へと赴いた。 「カルザス君。君の考えは分かった。私の跡継ぎにという条件でよければ、君とレニー君を迎え入れようと思う」 「ありがとうございます」 「カルザスさん。婿養子という形になってしまうけれど、あなたはそれでよろしいの? こういったことは慎重にならなければいけないし、ご家族のかたのご理解をいただいたりしなくていいのかしら?」 「ええ、構いません。僕には帰る故郷はもうなくて、絶対に手放せないものといえば、ホリィさんとレニーさんだけですから」 カルザスを気遣ったアイシーに会釈し、彼は普段よりなお穏やかに微笑んで見せる。 過去はとうの昔に決別している。今更名残惜しいという気持ちなど、一切なかった。 「ではさっそく二人には研修期間として、まず事務所の方を手伝って貰いたいのだが……」 「ああ、ええと、すみません。気持ちはもう固まっているのですが、できれば今の僕達の店を畳む準備期間をいただけないでしょうか? いろいろな残務処理や在庫の処分なども手付かずのままなので。勝手ばかりで大変申し訳ないのですが……」 「そうか、そっちの問題があったね。ではどの程度、日にちの猶予があれば大丈夫かね?」 「早急に今の店を片付けますので、そうお待たせしないようにさせていただきます」 「では書面上の契約だけ、今日してもらって構わないだろうか?」 「はい、よろしくお願いします」 マクソンが秘書をベルで呼びつける。そしてカルザスとレニーは、雇用契約書にサインをした。 書面で契約を交わす段取りを組むという点において、やはりマクソンは大変信頼に値する人物だと、カルザスは彼を改めて尊敬する。仕事に対してのトラブルを未然に防ぎ、口約束での契約をしないという、非常に信頼のおけるやり方だ。 「そうそう。カルザス君とレニー君は、二人一組として行動してもらう形で良かったのかな?」 「あ、はい。お気遣い痛み入ります」 「ははっ。君たちを常に一緒に行動させてくれと、ホリィにも強く言われていてね」 「あ、あの……おれの身勝手に、カルザスさんとホリィを巻き込むような形になってしまって……すみません……」 レニーが項垂れる。 「いや、気にしないでいい。先日の夕食会でのトラブルで、君達がお互いの足りない部分を補い合っていることは重々理解した。こういう言い方をしては失礼だが、君たち二人がいれば、今後仕事の上で、何か問題が起こっても上手く切り抜けていけそうだ」 「あの……おれは……カルザスさんと比べて、経営がどうとか商売がどうとかって話はまるでダメなんですけど、でも精一杯がんばります」 「頼むよ、レニー君」 マクソンとホリィアンの気遣いに感謝しつつ、二人は応接室から退室した。 |
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