砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     5

 期待に胸を膨らませながら、奥の扉に消えたレニーを待つ間、ホリィアンはぐるりと改めて狭いキッチンを見回した。
「……わたし、カルザスさんのお嫁さんになったら、こっちに住むことになるのかな? でも三人で住むにはちょっと狭いよね? じゃあやっぱり、もうちょっと広いお家《うち》に引っ越して、お店も移転して、わたしは今まで通り、お店の手伝いをして……」
 ホリィアンが結婚後の想像を膨らませていると、奥の扉が軋んだ音をたてて開いた。
「あ、レニーさん。もう準備でき……」
「久しぶりだから……ちょっと変かも」
 銀髪の美女が、少しはにかんだ様子でそこに立っている。確かにレニーの面影はあるのだが、艶っぽい仕草や表情は、正真正銘、女であるホリィアンから見ても、言葉を失う程の美女然としていたのだ。
「どうしたの、ホリィ?」
 落ち着いたトーンのハスキーな声音で、レニーはホリィアンに問いかける。その呼びかけで彼女は我に返った。
「ひゃっ! あ、あの……予想してたよりずっと綺麗なので……びっくりするのを通り越しちゃって。あの……本当にレニーさん……なんですよね?」
「あははっ! おれはおれだよ。へぇ、髪をこんだけ短くしても、化ければまだ女に見えるんだ」
 レニーのいつもの声が聞こえてきて、ホリィアンは少しホッとする。だがすぐ拗ねたような表情を浮かべ、口を尖らせた。
「レニーさんずるいです。本当は男の人なのに、こんなに綺麗になれるなんて」
「ズルいとか言われても、持って生まれたのがコレなんだから仕方ないじゃん? でもこの容姿のお陰で、おれは正体バレずに上手くやってきたんだよ。命かかってるんだから、そりゃあ本気で化けるよ」
「そうですけど……ああ、でもこんなに傍で見ていても、レニーさんが男の人だなんて信じられない」
「ホリィだってちゃんと化粧とかすれば、おれなんて霞むくらい可愛くなるんじゃないかな? 若いだけでも充分可愛いんだし」
「わたしなんて無理ですよ。元がレニーさんと違い過ぎますもの。ありふれてるっていうか、質素っていうか」
 レニーがホリィアンに顔を近付けて、ニッと笑う。
「じゃ、やってみようか?」
「え?」
「カルザスさんが帰ってくるまでに、可愛く化けて脅かせちまえ!」
「ええーっ! だって、わたし……きゃっ!」
 レニーはホリィアンを奥の部屋へと引きずり込んだ。


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