砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     7

 アイル邸を出たところで、レニーは意気消沈した面持ちでホリィアンに声をかけてきた。
「ホリィ、ごめんな。やっぱりおれ、カルザスさんやホリィにとって、迷惑で不都合な存在みたいだった」
「そんなことないですよ。父はダメって思った相手は、話も聞かずに追い出しちゃう人ですから。だからレニーさんを追い出さなかったってことは、気に入ってくれたってことですよ」
「そうなのかな……」
 まだ疑念が拭えないのか、レニーはショールの端をきゅっと握った。
「マクソンさんはとてもいいかたでしたから、嘘や遠回しな表現しかできないことが余計に心苦しかったですよね」
「うん……」
 やはりまだ彼の心は晴れないようだった。だが、ふと思い出したように顔を上げる。
「そういやカルザスさんは、なんで最後にあんな嘘を?」
「うそ?」
 ホリィアンがカルザスを見上げる。
「嘘でもないですよ。僕が実家を捨てたのは事実ですし、実家を出た時に全て無かったものと振る舞ってきたのも事実です。だから僕は名乗らなければならない際、事情説明の面倒を避ける意味でトーレム姓を名乗るだけで、あの家とはもう無関係です。今はただ同姓というだけの意味しかありません。マクソンさんとしてはご自身のお仕事で、トーレム家と何らかの繋がりを持てたら、と考えたのかもしれませんが」
「父の言ってたウラウローの商家さんのことですか? カルザスさん、商人の家の出だったんですね」
「ええ。出身が、です。今はただの、傭兵あがりの町の雑貨屋さんですよ」
 カルザスがおどけるように肩を竦める。
「お店を手伝っていて、カルザスさんって元傭兵さんなのに、なんだか商売に対して精通してるなって思ってたんですけど、出身が商人さんなら当然ですよね」
「まぁ、今の仕事には役立ってますね。でも僕は二度とあんな家には戻りたくありません。はい、その話はもう終わりです。僕は今はただの町の雑貨屋さんですから」
「ふふっ。そういうことにしておきます」
 過去をこれ以上、詮索されたくないのだろうと判断し、ホリィアンは笑った。

 二人の秘密を沢山知ってしまった。今はまだ、とてもではないが頭で整理しきれない。自分の理解の範疇を超えた過去を二人は背負っており、そして今は何事もなかったように笑っている。そんな二人の手伝いを、これからもしていければいいのに。
 いえ、わたしは二人の最大の理解者になるのだ。だからもっともっと勉強して心も鍛えなければ、置いて行かれてしまう。事実を話してくれた二人に報いるためにも、生半可な覚悟ではいられないのだから。
 彼女は決意も新たに、ミューレンの町の雑貨屋へと、軽やかな足取りを向けるのだった。


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