砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


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「なんか嵐みたいだったね」
「ええ、全くです。あ、いえ! 迷惑ではないんですが!」
 キッチンの片付けを手分けしてこなしながら、カルザスとレニーは顔を見合わせ、同時に吹き出す。
 だがふいにレニーが真顔になった。
「それで……連中は怪しんでなかった?」
 念の為、声を潜める。
「ええと、旅人風の男性と女性ですよね? あのかた達は、本当にただの通りすがりだったようで、ブレスレットをひとつお買い求めになってすぐ帰られましたよ。レニーさんが出て行かれたことも、不審に思っている様子はありませんでした」
「そっか、思い過ごしか」
 レニーがようやく安堵したように胸を撫で下ろす。
「ホリィさんも一緒に行かせたこと、彼女は疑問に思われませんでしたか? 緊急のことだったので、とりあえず黙っていてくださるようにお願いしたのですが」
「うん。静かにしてくれてたよ。でもずっと黙ってるのも不安だろうから、ちょっとだけおれの昔のことを話した」
「え……じゃあホリィさんは……」
「大丈夫。暗殺者だとは言ってない。ちょっとした悪党だったって言っただけで、そして今でも追われてるってことだけ言ったんだ」
「ホリィさん、怯えないでしょうか」
「信じてくれるってさ」
 カルザスが小首を傾げると、レニーは彼の首を抱え込んで締め上げた。
「おれとあんたを信じてくれるってさ! 強くてまっすぐな子だよ。カルザスさん、あんたホントにいい子に惚れられたよね! このっ、このっ!」
「い、いたたたたっ!」
 カルザスはレニーのホールドから逃れ、痛む首を擦った。
「ホリィを幸せにしてやんなよ」
「あ、はい、その……僕も、少しですが以前より、ホリィさんに惹かれはじめているかもしれません。でも彼女にも了承を得ていますが、レニーさんの護衛が一番であることは揺るぎませんからね」
「ありがと。でもそれとなく惚気けたね?」
「ハッ……」
 カルザスが赤面する。
「あははっ! それでいいんだよ。さて、さっさと片付けちまおう。これじゃ、ホリィとハンナさんが入るスペースがないからね」
「はい」
 二人の謎多き男達は、賑やかで華やかな花二人を迎えるために、狭いキッチンを大急ぎで片付けるのだった。


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