砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     3

 店に戻ると、客はほとんどいなくなっていた。代わりにハンナが来店している。
 彼女は小太りの体を怒らせながら、レニーに詰め寄ってきた。
「どこほっつき歩いてたんだい! カルザスくん一人で、店は大変だったんだよ!」
「ご、ごめん、ハンナさん。店のお釣りが足りなくなって、それでちょっと両替に……」
「カルザスくんが一人で、てんてこ舞いだったところを、偶然アタシも買い物に来てね。だから手伝ってやってたんだよ」
「うわ、マジごめん!」
 レニーがあたふたしながら、勇ましく頼もしい助っ人に謝っている。
「おや、この子は?」
 ハンナがレニーの傍でオロオロしているホリィアンを目ざとく見つける。
「ああ、この子はホリィ。カルザスさんの彼女」
「は、はじめまして! ホリィアン・アイルと申します」
 ホリィアンはペコリとハンナに頭を下げる。するとハンナの顔がぱぁっと明るくなった。
「まぁまぁまぁ! カルザスくん! どうしてそんな大事なことを、このアタシに黙ってるんだい? ホリィちゃん、アタシはハンナ。二人のご飯の面倒を、たまにだけど見てあげてるんだよ。もちろん今日みたいな火急の事態にも応援に入るよ。なぁに、ただの世話焼きオバチャンさ」
「そうなんですか。じゃあずっと入れ違いだったんですね。わたしは少し前から、こちらのお店のお手伝いに来させていただいてるんです。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
 ハンナが親しげにホリィアンと握手を交わす。そして振り返り、カルザスを手招きした。
「ついにあんたも身を固める気になったんだねぇ」
「あ、いえ、まぁ……」
 カルザスは曖昧に返事を返し、わずかに頬を上気させた。
「お兄ちゃんの話がまとまったんなら、次はレニーちゃんだね!」
「えっ? おれ?」
 レニーが素っ頓狂な声をあげる。
「いやいやいや。おれは無理だから! おれはその気、全くないし!」
 ハンナの強引なまでのお節介に、さすがのレニーも慌てふためいている。
「レニーちゃんはカルザスくんとは違う意味で器量良しだから、見合い相手だってすぐ決まるさ。よし、それじゃあ今夜はお祝いだね! アタシがとっておきのご馳走を作ってきてあげるから、ホリィちゃんも一緒にお食べ」
「え、わたしもですか? わたし、一度家に帰って両親に許可を得てこないと……」
「じゃあすぐ了解取ってきな。ほい、行った行った!」
 ハンナはずいっとホリィの背中を押して、彼女を強引に一時帰宅させてしまった。
「じゃあアタシもすぐ買い出しに行かないとね! ふたりとも、キッチンを綺麗に片付けておいでよ」
「は、はぁ。ありがとうございます……」
 いつも強引なハンナに急遽、夕食の宴開催を告げられ、カルザスとレニーは店を早めに切り上げる羽目になった。
 ハンナの強引なお節介は、いつも唐突過ぎる。だが、嫌ではなかった。それはハンナの持ち前の快活さが伝染するからなのだろう。


     4-2top4-4