砂の棺 if 叶わなかった未来の物語 「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。 北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。 |
2 翌朝、カルザスはいつものように朝日が昇ると同時に目を覚ました。まだ少しぼうっとする頭を振り、意識の覚醒を促す。そしてまだ隣のベッドで眠っているレニーを起こさないように、そろりと寝室を出た。 レニーは過去の職業柄、相変わらず朝には弱いのだ。いつも仕事始まりまでに、彼を叩き起こすことに苦労しているカルザスだった。 欠伸をしながら大きく伸びをして、ようやくシャキッと目覚めた頭を無造作に掻く。今日の寝癖もかなり酷い。固い髪質の自分が恨めしい。 顔を洗って身支度を整えていると、背後からヒタヒタと近付いてくる足音が聞こえた。振り返ると、寝ぼけ眼《まなこ》でぼんやり立っているレニーがいる。 「あれ、どうしたんですか? いつもは僕が起こすまで寝ていらっしゃるのに」 「う、ん……眠い、けど……」 雲の上を歩いているようなフラフラした足取りで、今にも転倒しそうになっている。 「またこっそり夜更しですか? 僕が起こすまで寝ていらして構いませんから、もうひと休みなさってください。今から朝食の準備だけしますからね」 頷きかけたレニーは足をもつれさせ、カルザスの胸に倒れ込んでくる。 「ほら、もう……あ、あれ?」 上気した頬をカルザスの肩にぴったりとくっつけ、少し息苦しそうに肩を上下させている。彼の体を支えようと腰に腕を伸ばすと、寝間着が少々湿っていた。だがその身は冷たくはなく、むしろ熱い。 「レニーさん、ちょっと失礼します」 彼の前髪を掻き上げ、カルザスは自分の額を彼の額と合わせる。じわりと伝わる異常な体温、そして脂汗。 「え? あのレニーさん! た、体調悪いんじゃないですか? 熱がありますよ!」 仰天したカルザスは、レニーの体をしっかりと抱き支えた。 「やっぱ、り? 眠い、けど、苦しくて頭重くて寝てられないんだ……」 「とにかく横になってください!」 カルザスはレニーを抱えるように寝室へと引っ張り込み、ベッドへ寝かせる。 「お医者さまを呼んできますから、少しだけ待っていてくださいね?」 「早く、帰ってきてよ。一人……イヤだから……」 カルザスに心から信頼を寄せるようになってから、彼は一人になることに、極端に怯えるようになっていた。 それはこの北の国ミューレンに来てからも、時折感じ取る、過去の〝仲間〟たちの気配に怯えてのことだった。 暗殺者組織の中枢にいたレニーを、組織はまだ許してはいない。いや、許されることなどない。ゆえに刺客を放ってくるのだ。 ──組織を抜ける者には死を── それが組織の信念であり、同じ過ちを考える者たちへの見せしめだった。レニーは未だ、組織から追われる身の上なのだ。 「分かっています。だから熱くても、体を冷やさないようにして待っていてください。すぐ戻りますから」 レニーの体に毛布をかけ、カルザスは大慌てで家を飛び出した。 |
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