砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     3

 レニーの診察を終えた医者が寝室から出てくる。カルザスはガタンと椅子から立ち上がった。
「ただの風邪ではありますが、油断されませんように。たかが風邪と侮ってこじらせる者が多くてね。水分をしっかり摂って、滋養のある物を食べさせてください」
 医者に礼を言い、カルザスは彼を見送ったのち、空のボトルに水をたっぷり入れて、グラスと共にそれらを手にして寝室へと戻った。
「レニーさん、すみません。僕があなたを無理させていたのかもしれません」
 カルザスとレニーはこのミューレンで、雑貨屋を営んで日々の糧を得ている。
 主に取り扱うのは、生活雑貨や贈答用の木彫り細工。そして手先の器用なレニーが作る、ハンドメイドのアクセサリーなど。
 最近はオーダーアクセサリーの受注も受けるようになり、彼は夜遅くまで、アクセサリーの細工に没頭していることも少なくはなかった。
「違うよ。カルザスさんのせいじゃない。自己管理してなかった自分のせい」
 先程より少しだけ具合がよくなったのか、レニーは横になったまま、カルザスの謝罪をやんわりと否定した。
「でも何年ぶりかな……病気なんてしたの。おれ、意外と丈夫だから」
 カルザスは起き上がろうとしている彼の背を支えた。そして片手でグラスに水を注ぐ。
「はは。たまには病気もいいかな。カルザスさん、ずっと見ててくれるし」
「いい訳がないでしょう。しおらしいあなたなんて、僕は気が気じゃありません。レニーさんはいつも僕を振り回すくらいで丁度いいんですよ」
「やだなぁ。それじゃおれはただの暴れん坊じゃん。でも……そっかぁ。早く治さないと、カルザスさんに嫌われちゃうな」
「嫌ったりしません。でも元気でないとダメです」
「カルザスさん、意外とワガママなんだ?」
「ええ、僕はこれでも欲張りですからね。はい、お水飲んでください。急いで買い物に行って、食事を作ってきますから」
「あんまり食べたくないな」
「ダメです。さっき、お医者さまに言われたばかりでしょう? しっかり食べないと、治るものも治りません」
「わかった」
 カルザスはレニーが素直に水を飲むのを確認してから、寝室を出た。


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