Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


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 ミサオお師匠様が冒険者組合にタイガーパール捜索の依頼にいらした時、組合に所属していたタスクさんと再会されたこと。タスクさんに炎の魔神の呪いについてをお話しされたこと。帰国を強く勧めたけれどタスクさんはオウカに残ると仰ったこと。僕の純白魔術のこと。
 ミサオお師匠様はそこまでのお話を、タスクさんのお父様とお母様にお話しされました。
 それからタスクさんが引き続きのお話で、ご自身の魔力供給が安定しなくなっていた矢先に事故に遭われたこと。その事故が引き金となって炎の魔神の活動が本格化したこと。そして僕が純白魔術で炎の魔神を、タスクさんの全ての魔力と共に封じてしまったことをお話しされました。
 僕は膝の上でぎゅっと手を握り締め、俯きます。思い出したら、鼻の奥がツンとしてきました。
「……ご、ごめん、なさい……僕、が……もっと上手にしてたら……タスクさんの魔力、失わせたり……しなかったのに……ごめんなさい……」
 泣くのを一生懸命堪えました。だって泣いても結果は変わりません。
 僕の頭を姉様が撫でてくださいました。姉様はたぶんお話の全容を理解しておられないでしょうけれど、でも僕が悲しんでいる時は、いつもこうやって頭を撫でてくださるんです。姉様、優しいです。
「コート、まだ言わせる気か? お前がやらなきゃ俺は死んでたんだ。お前はもう謝らなくていい」
「そうやで、コートニス君。あんたは正しい判断をしてくれた。タスクを助けてくれた。ウチやおとんもおかんも、あんたにお礼言わんと。ありがとうな」
 ミサオお師匠様が慰めてくださいますが、でも僕、本当に後悔してるんです。
 もっと他に方法があったのではなかったのか。僕がもっとがんばって、魔術について理解して、使いこなす練習をしていれば、タスクさんの何もかもを奪ってしまうことにはならなかったんじゃないか。
 タスクさんやミサオお師匠様が、僕が正しかったと仰ってくださればくださるほど、僕は自分を責めてしまうんです。
 タスクさんの命は助かりましたけど、でも……結果的には僕がタスクさんの能力も夢も奪ってしまったんです。僕、また大切なかたの大切なものを壊してしまったんです。

「でも驚きやなぁ。そんな傍に、希少な純白魔術師がおったやなんて」
「しかもごっつう魔力も大きいし。タスクの魔力封印は、ウチとオトウチャンとミサオの三人掛かりでせなアカン思てたのに、こんな小っちゃい、めんこい子一人でしてまうんやもんなぁ。凄いわぁ」
「僕は……すごくなんか……」
 本当に力を使いこなていたなら、問題のある部分だけを封印できたはずなんです。エイミィさんがファニィさんの魔物化を封じたように。
 僕にはそれができなかった。習った通りに呪文を反芻して、必死に魔力を制御して、だけど精霊をきちんと使役できなかったから、全てを壊してしまう結果になったんです。
「コートニスちゃんやったな」
「は、はい」
 タスクさんのお父様が僕の隣にいらして、膝をついて僕の手を取りました。
「ホンマに……ありがとうな。タスクに再会できたんも、タスクを助けてくれた君のお陰や。ホンマに心から礼言うで」
「そ、そんな……僕……」
 僕が戸惑っていると、お母様も僕の傍に来られて僕のもう片方の手を握られました。
「そんなに自分責めんでええんよ? コートニスちゃんはウチらに最高のプレゼントしてくれたんやもん。言葉にできへんくらい感謝してるのに、コートニスちゃんがそんなに自分責めてしもたら、ウチもオトウチャンも何に感謝したらええのんか分からへんなるやん。人の感謝は素直に受け取るんが、相手に対する一番のお返しなんよ」
 お母様の言葉を聞いて、僕は顔を上げます。お母様と、お父様が僕に微笑み掛けてくださいました。
「……あ、の……僕……」
「うん?」
 地下工房の入口の前で血を流して倒れていたタスクさんを思い出します。そのタスクさんの周囲に渦巻いていた、黒い魔の力に圧倒されそうになったことを思い出します。僕はあの時、タスクさんを絶対に助けたいと思ったんです。
「……ぼ、僕……一生懸命、でした。タスクさんを助けたくて……助けられるのは僕しかいないって、ミサオお師匠様から伺っていて……僕、必死になって……すごくがんばって……タスクさんも……『封じろ』って仰って……」
「うん」
 お父様もお母様も、まとまりのない僕の言葉をじっと聞いてくださっています。
「良かった……んですよね? 僕……間違ってなかったんですよね?」
「そうや。やっと分かってくれたか」
「ホンマにええ子やね」
 ずっとくすぶっていた僕の心の闇が、ゆっくり晴れていきました。僕は自然と笑顔になって、嬉しくなって、泣いちゃいました。
「僕、タスクさんを助けられて、本当に良かったです」
 お母様が僕をぎゅっと抱き締めてくださいました。姉様やファニィさんとは違う、優しい温かな匂いと感触。これが……本当の母親、というものなんでしょうか?

「今日は嬉しい事ふたつもいっぺんにあったお祝いや。ご馳走作るさかい、皆さん食べてってや!」
「今日だけ言わんと、明日も明後日も泊まっていってくれて構わへんのよ」
「コートニス君。久し振りにいっぱいお話ししよな!」
 とても暖かいご家族です。タスクさんは町の皆さんからは辛く当たられていますけれど、でもとても幸せなんですね。

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