Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       4

 町の見回りはあれからまだ続けてる。だけど全然事件は発生しない。
 そりゃあ殺人事件なんて再発しないに越した事はないんだけど、でもそれじゃ犯人は永遠に捕まえられない訳で、そしてあたしたちの見回りは延々と続く訳で、とにかく事件が起こってくれないと、この依頼は未来永劫完了しない。
 さすがに不死身のあたしでも、そこまで体力は持たないわ。死なないけど。

「かと言って、二人と二人の交代で見回りって訳にもいかないわよね。もし事件が起こったら、二人じゃ対応できないし、コートを一人分とカウントするには可哀想だし」
「他のチームにも手伝ってもらうってのも無しか?」
「うーん……ホントはあたしの手で片付けたい依頼だったけど、その方がいいかもね。いざって時に動けないじゃ意味ないもの」
 あたしは食堂で、タスクの淹れてくれたお茶を啜りながら、かなり疲れた足を片手で揉みほぐす。誰かマッサージしてくれないかな?
 あたしの隣では、ジュラがテーブルに両手を枕にしてすやすや眠り込んでいる。体力だけが自慢のジュラでこれだもんねぇ。あ、ジュラだから能天気に居眠りしてるのか。
「……プーッ! ご主人サマってガラかよ、あのオヤジが!」
 食堂の端っこで大声で笑っているのは、町の青果屋台の息子のコハク君。なんだかコートが気に入ったとかで、御用聞きのついでにいつもここでコートとちょっとお話しして帰っていく。お話って言っても、聞こえるのは声の大きいコハク君だけで、元々声が小さいコートの声はほとんど聞こえない。
 一応……会話、成立してるのよね?
「コートもなんか楽しそうだな」
「組合に同年代の友達いないもんね。オウカに来てから、初めての友達じゃないかしら?」
 コートが真っ赤になってコハク君に何か反論している。だけどコハク君はケラケラと笑っているだけ。
 社交的で明るいコハク君に、内気で慎ましやかなコート。全然違うタイプだけど、やっぱり同年代っていうだけでもいい友達になれるわよね。
「そうだ、コート! こっちこっち!」
 コハク君が突然、コートの手を引っ張ってあたしたちの方へやってきた。
「タスク。おやつのおねだりかもよ?」
「えー、マジかよ」
 茶化して言うと、タスクはまんざらでもない様子で笑う。こいつって、自分の作ったもの食べた人が美味しいって顔してると、すっごい嬉しそうないい顔するんだよね。
 健康的に日焼けした肌の元気いっぱいのコハク君と、ラシナの民特融の透明感のある白い肌でおとなしそうなコート。本当に見た目も正反対。

「姉ちゃん、兄ちゃん、ちょっと相談!」
「なぁに?」
 あたしが首を傾げると、コハク君は突然コートをぎゅっと抱きしめた。コートは目を白黒させて驚いている。
「おれ、コートと付き合っていい? こいつ、すっげー気に入ったんだ!」
 タスクが盛大にお茶を吹き出す。うわっ、汚いなぁ!
「え……ふええぇっ?」
 コートもコハク君の突然の交際宣言に驚いて、彼の腕の中で顔を真っ赤にして硬直している。
 あたし、ちょっと絶句。
 あー……うん。ちゃんと言ってなかったあたしたちも悪いんだけど、でもコハク君が勘違いするのも仕方ないよね。コートだし。
「コ、コハクさ……な、なに……急に……だって……!」
「おれ、彼女作るなら絶対頭のいい奴って決めてたんだ! おれバカだからさ」
 テーブルの上に自ら吹き出したお茶を、クロスで拭きながらタスクは渋い顔をしている。あたしは頬杖をつき、ふぅと嘆息した。
「……どうする?」
「言ってやれ。傷が浅い内に」
「タスクが言えばいいでしょ。関係者なんだし」
「なんで俺が!」
 期待に満ちた眼差しで、コハク君はあたしたちを見ている。どっちが話すかタスクと言い争ってると、ジュラが小さく欠伸をして目を覚ました。
「まぁコート。お友達さんと仲良くしていて?」
「ジュラ姉ちゃん! おれ、コートと付き合っていい? 姉ちゃんはコートの姉ちゃんなんだよね?」
「コートと仲良くしてくださるの? それはとてもいい事ですわ」
 ジュラが会話に混ざると余計にややこしくなるから黙らせないと。
「ジュラ。ちょっと黙ってて」
 あたしはやれやれと首を振り、コハク君の視線に合わせて身を乗り出した。
「コハク君。ちょっと勘違いしてるみたいだからきちんと教えてあげるね。コートって、君と同じ男の子だよ」

「うん。だから?」
 コハク君が不思議そうに小首を傾げる。
 ……あれ?
 今度はあたしの方が逆に首を傾げる。

「いえ、ね。だからコートは男の子だけど、付き合うって……本気?」
「ファニィ姉ちゃん冗談うまいなぁ。こんな可愛い男、いる訳ないじゃん。な、コート?」
「ぼ、僕……男……です……」
 コートが真っ赤な顔で、今にも泣き出しそうな表情で正体を明かす。あ、ううん。明かすって言うより、ありのままの事を白状するというか。
するとコハク君は笑顔のまま硬直した。
「ファニィさん、コハクさんはどうなさったの?」
「うん、ショックなんだと思うよ」
 ジュラが、訳が分からないと言った様子で指先を唇に当てて首を傾げる。ジュラに、このややこしい状況を理解させるのは無理だろうなぁ。掻き混ぜてひっくり返してもっと混乱させるのは得意だろうけど。
「……えっ、えっ? だってコート、タスク兄ちゃんに憧れてるって言ったじゃん! タスク兄ちゃん男じゃん!」
 タスクがやれやれと溜め息を吐いて、面倒臭そうにコハク君の前で手をヒラヒラさせる。
「コートはな。『そういう性癖』なんだよ。一方的に惚れられてんの、俺。でも俺はノーマルだから相手にしてねぇけどな」
「ぐすっ……」
 コートが目に涙をいっぱい浮かべてコハク君を上目使いに見る。
「ご……ごめん、なさい……言うタイミング……逃してしまって……でも、コハクさんが僕のこと、そう思ってくれてるなんて知らなくて……」
 コートって自分が惚れっぽい性格してる割には、周りからの好意に鈍感だよね。エイミィの時もそうだったし。
「……マジ?」
 コハク君が腕の中のコートに再確認する。コートはぐすぐすとしゃくりあげながら一回頷いた。
「……えーっと……ちょっと考えて……また来るよ。おれ、なんか頭グチャグチャ」
 コハク君がコートから離れ、ぐっと唇を噛み締めて逃げるように食堂から出て行った。
「コート。なんで最初に言わなかったの?」
 コハク君もちょっと強引だし身勝手だったけど、でも最初に説明しないコートも悪いわよね。今までどれだけ自分が女の子に間違えられてきたのか、忘れちゃってるんじゃないかしら?
「だって……お分かりになっていらっしゃるとばかり……」
「お前は自分の見た目と中身のチグハグさを認識しろ。もういっぺん鏡見てこい」
 タスクは呆れたように呟き、カップに残ってたお茶を飲み干した。

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