風薫る君

大好きな両親と家を失った幼い深咲を救ったのは、
銀の瞳を持つ美麗の双子の“きょうだい”だった。
妖が跋扈する緋ノ国に、疾風が舞う。迅雷が弾ける。

「……必ず、迎えに行ってあげるから」


     二

 お父さんの夢を見た。お母さんの夢を見た。何も知らなかった頃の、幸せな夢。
 それから、宙夜と眞昼の夢を見た。宙夜は怒ってなかった。眞昼も優しい顔をしてた。遠くで御國さんが手を振っていた。
 みんな、優しくしてくれたのに。
 ……あたし、ひどいことを言ったんだ。宙夜と眞昼のこと、半妖でもいいから、二人が好きだからって言ったのに、自分のことで頭がいっぱいいっぱいで、自分ばっかり優先して、二人の気持ちを考えてなかった。
 謝らなくちゃ……。
 でも今更御國さんのお店に戻って、二人はあたしの話を聞いてくれるかな? あたしを許してくれるかな?
 あたし……ワガママ過ぎたよね。
 自分で自分のことがイヤになって、でもそのイヤは妖の血のことじゃなくて、あたしの身勝手でワガママな性格のこと。
 あたし、みんなに甘えてた。お父さんに、お母さんに、宙夜に、眞昼に、御國さんに。世間知らずだった。甘えるばかりで頼るばかりで、何も自分からしようとしてなかった。だからあたしは宙夜に愛想尽かされたの。
 もう一度会ってもらえるなら、もうワガママ言わない。もっといい子になる。もっとあたしを信頼してもらえるように、あたしもみんなを信頼して、大人になる。
 今になって気付いたって、もう遅いんだって分かってる。だけどもう一度、宙夜と眞昼に会いに行って謝ろう。

 雨の中、ひとりぼっちで座り込んでいたあたしを助けてくれたのは園桜さん。あたしは園桜さんに宙夜たちと仲違いしてしまったと説明して、宙夜たちに謝るにはどうすればいいか聞いてみたの。そうしたら今はとにかく体を休めないと体を壊すからって、園桜さんが住んでいるという、町外れのお屋敷に連れてきてもらった。
 すごく大きなお屋敷で、あたしなんかはここに入れてもらうには場違いに思えて、ちょっと気後れした。だけど園桜さんは、びしょ濡れのあたしの手を引いて、その大きなお屋敷に入って行ったの。
 あ……。
 あたしが知ってる数少ない人だったからって、疑いもせずについてきちゃったけど、園桜さんは領主さん側の人なんだった。園桜さんが優しい顔でうんうんって聞いてくれるから、ついいろんなこと話しちゃったのって軽率だったかな?
 でも妖の血のこととか、宙夜と眞昼の精神が入れ替わってることとかは言ってない。
 喧嘩しちゃったって、あたしがワガママだから愛想尽かされちゃったんだって、そう話しただけ。だからよほど勘がいいとかでなければ、あたしや宙夜たちの妖のことも、性別のこともバレないとは思うけど……。
 それでもやっぱり園桜さんに話すのは、いけないことだったのかもしれない。
 あたしが話しちゃったことで、宙夜と眞昼が危険な目に遭ってしまったらどうしよう。今度こそもう本当に、許してもらえなくなっちゃうかもしれない。
 保身のためじゃないけど、気が緩んで、ついいろいろ話してしまったこと、少しでも早く二人に伝えた方がいいよね。そうしたら、なにか対策を準備できるかもしれないもん。
 何も知らずに、助けてもらった園桜さんには悪いとは思うけど……今の内にこっそり抜けだそう。

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