砂の棺 if 叶わなかった未来の物語 「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。 北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。 |
7 寝室のベッドに背を預け、レニーは膝を抱えて蹲っていた。その憔悴しきった様子を見たホリィアンは、言葉を失い、カルザスも無言で彼を見つめている。 先に動いたのはレニーだった。 「……ん、ごめん。途中で抜けて」 密かに泣いていたのかと思ったが、かなり憔悴してはいるものの、彼は泣いてはいなかった。レニーの視線がサイドボードの引き出しに向かう。 「大丈夫。『逢って』はいないから」 「逢われればよろしいですのに」 「その辺りの気持ちは切り替えてるつもり」 レニーは立ち上がり、だがフラフラとベッドに倒れ込むようにして座り込んだ。ホリィアンが思わず駆け寄ろうとして、踏みとどまる。そんな彼女を見て、レニーは力なく口元を緩めた。 「……ホリィ、聞いたんだ」 「は、はい……」 「すみません。僕の独断で話しました」 「いいよ。ホリィには知る権利があるからね。カルザスさんが話してもいい相手だと判断したなら、それでいいよ……」 見ていて痛々しい程、強張った笑みを浮かべる彼。 「あの……レニーさん……」 先ほどカルザスは、彼に慰めなど言葉はいらないと言った。だがホリィアンは何かを言ってあげたくて、思わず声を掛けていた。 「ねぇホリィ。ちょっとだけ君に甘えてもいい?」 彼女がささやかな慰めの言葉を脳裏に思い浮かべるより早く、彼は掠れた声音で問いかけてきた。 「あ、はい! わたしにできることなら……」 「カルザスさん。ホリィを少し借りるよ」 「ホリィさんが了承なさっていることを、僕がダメとは言えないでしょう?」 レニーはホリィアンを手招きし、彼女はおずおずと彼に近付いた。 「少し苦しいかもしれないけど」 そう前置きしたレニーは、ホリィアンを突如、強く抱き締めた。 「……シー……ア……!」 涙声で、レニーが呻いた。ホリィアンは驚いて硬直していたが、すぐ我に返ってそっと腕を伸ばし、ポンポンとその背を優しく撫でた。 「はい……『わたし』はここにいます……」 「シーア……シーア……すまない」 絞り出すような悲痛な声で喘ぎながら、レニーは『シーア』を抱いた。愛しい少女をもう離すまいと、強く抱擁した。 ゆっくりと十を数える程度か。しばらくし、ホリィアンを開放する。 「ごめんな、ホリィ。みっともないトコ見せて。でももう落ち着いたから」 「はい。わたしは平気です」 レニーは少し恥ずかしそうに照れ笑いしながら、ホリィアンをカルザスの方へと押し出した。 「カルザスさんもごめん、目の前で。女々しいって思うかもしれないけど、ちょっと……耐えられなくてさ」 「わたしはシーアさんに似ているんですか?」 「あ、いや。そうでもないんだけど。でも背格好は似てるかな? だからからな。この手にシーアを抱き締めたくて、堪えられなかった」 「あの……わたしでよければいつでもそうしてくださいね。我慢しすぎること、ないと思うんです」 「ありがと、ホリィ。君は優しいね」 彼は額を押さえて俯いた。 「カルザスさん、店は?」 「閉めました」 「じゃあおれはもういらないよね。悪いけど……もうちょっと休ませてもらっていいかな」 「どうぞ。ごゆっくりなさってください」 カルザスはホリィアンを促し、寝室を出た。 |
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