LOST PRINCE

「死を意識するなんて何度目だろう?」
スラムで育った少年フェリオは、腕の中で冷たくなってゆく少女を抱きしめながら、そう思う。

豪胆な女性マーシエとの出会いが、
スラムの孤児であったフェリオの運命を大きく変える。


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「あんたがスラムに堕ちた原因でもあるだろう、故ヴァクレイト王の息子たち──第一王子と第二王子の覇権争いがあったのは知ってるね?」
 マーシエの言葉に、フェリオは頷く。
「父さんと母さんも徴兵されて、死んでしまいました」
「兄王子はデスティン、弟王子はオーベル。デスティンは、剣を一振りすれは一度に数十人を殺し、オーベルの魔術は一言唱えるだけで何十人もの息の根を絶やすほどの、相反する技の手練れなんだ」
 マーシエは腰の剣をカチャリと鳴らし、言葉を続ける。
「先の戦いで負けた弟王子のオーベルはね。兄王子のデスティンから覇権を取り戻して、力で制圧された社会をひっくり返そうと隠れて隙を伺っているんだ。オーベルが覇権を取り戻せば、人々は平等になり、あんたみたいなスラムの孤児にも、給金をもらえる仕事ができるようになる。その手伝いをフェリオに頼みたいんだ」
 僅かな知識を寄せ集め、自身の言葉に置き換える事で、その意味をなんとか理解する。 しかし彼女の説明はとてつもなく重い責任を生み出しており、フェリオにはすぐ理解はできなかった。

「……やっぱり僕を兵士にしようとしてるんですか?」
 フェリオは怯えた眼差しで、無茶な事を言い出した彼女を見上げる。
「違う。オーベルはね。『ある事情』があって、オーベル派の民の前に姿を現す事ができないんだ。だからあたしはオーベルに直接頼まれ、オーベルの影となれる者を探していたんだ」
 フェリオはハッと息を飲む。
「もしかして……」
「もう分かるだろう? フェリオにはオーベルの影として、民の前に姿を現す役割を担ってほしいんだ」
 あまりの内容に、フェリオは息をする事も忘れてマーシエを見つめていた。
「もちろん今のままのフェリオじゃ、すぐに偽物だとバレる。沢山食べて貫禄を付け、礼儀作法や王家のしきたり、一般的な教養を身につけ、誰も彼もがあんたを完璧にオーベルだと思わせるような所為を身に付けてもらわなくちゃいけない。フェリオならできる。あたしはそう直感したからこそ、あんたをここへ連れてきたんだ」
「……む、無理で、す。お、王子の真似、なんて……僕は……孤児で……教養なんてなくて……」
「初めから諦めるんじゃない。気弱なあんたは封印しな。そしてオーベルになりきれ。それができれば、温かい寝床と食事は一生保証する。それができなければ死ぬ。スラムで何度も死にかけてるんだ。あんたはもう、死なんて怖くないだろう? 一度死んだ気でやってみな」
 彼女の強気な励ましに、弱々しい小柄な少年は言葉を失った。

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