LOST PRINCE 「死を意識するなんて何度目だろう?」 スラムで育った少年フェリオは、腕の中で冷たくなってゆく少女を抱きしめながら、そう思う。 豪胆な女性マーシエとの出会いが、 スラムの孤児であったフェリオの運命を大きく変える。 |
スラムの少年 1 死を覚悟したのはこれで何度目だろうか? 戦災孤児のフェリオは、乾いた唇を口の奥に僅かに残った唾液で舐め、潤そうとする。それでも乾きは戻らなかった。 「ピオラ、もう少しだから……がんばろう」 動かない体を必死に奮い起こし、彼は傍らに倒れる幼女の体を抱き留める。そして彼女を引きずるように歩き出した。 スラムには、先の戦で死んだ者を弔うための墓地が至る所にある。そんな墓地の一つに、今は使われていない墓守小屋があった。そこにフェリオと、同じような境遇の孤児たち五人は肩を寄せあって暮らしていた。 弱々しい少年はねぐらに戻るため、必死に『仮の妹』のピオラを連れて足を進める。しかし疲れきった体は言うことを利かない。 今現在、国の覇権を握っているのは兄王子デスティン・ケイブ・ヴァクレイト。彼はスラムに度々兵士を派遣しては、孤児たちを捕まえてどこかへ連れて行った。そして戻ってくる者はなかった。噂では、デスティンの剣の試し斬りに殺されているのだという。 真意は分からないが、フェリオとピオラも、今日の孤児狩りから何とか逃げおおせたところだった。 ねぐらまであと少しという所で、フェリオは倒れた。もうピオラを庇いながら歩く事すらできない。そんな体力は、ただの一滴すら残っていない。それでもピオラを庇うように彼女の小さな体を抱いたまま、フェリオは墓地の入り口で倒れ、意識を失った。 |
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