Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       4

 ファニィさんに呼び出されて、一緒に組合の談話室へ向かう途中でした。ちょうど食堂の前を通り過ぎようとした辺りです。
 偶然廊下ですれ違ったヒース様に、ファニィさんはいきなり足払いを仕掛けたのです。そして転倒なさったヒース様に、トドメの蹴りを。
 元々行動の読めないかたでしたが、何もしていない相手にいきなり手を挙げるような事は今までありませんでした。あ……今回は足ですけれど。
僕は驚いて姉様の影に隠れます。するとヒース様の悲鳴を聞いて、厨房からチーフさんとタスクさんが飛び出していらっしゃいました。

「まぁ、ファニィさん。いきなりどうなさったんですの?」
「ファニィ、お前なに仕出かして……」
 姉様とタスクさんが、仁王立ちしているファニィさんを見て声を掛けます。そして状況が飲み込めていないヒース様は、尻餅を着いたまま目をパチクリさせてファニィさんを見上げていました。
「ヒース! 今日この場ではっきり宣言させてもらうわ!」
 騒ぎを聞き付けた組合の皆さんが集まっていらっしゃいました。ファニィさんとヒース様を中心に、人の輪が出来ます。
「もう金輪際、あんたにおとなしく従う気は、あたしにはこれっぽっちも無いから!」
「ファニィ! 貴様、魔物との混血のくせに……ッ!」
「ええ、そうよ。あたしは魔物の血を持って生まれてきたわ。だからあんたなんか、その気になれば簡単にぶちのめせるの。どんな武器持ってきたとしてもあたし、死なないから。どう? もう一発くれてあげようか?」
「くっ……」
「だけどその魔物との混血に、あんたは組合の仕事取られてるじゃない! それはあんたが無能だから! あたしが有能だから! あんたが出来損ないだから、あんたは地方に左遷されてるんじゃないの!」
「左遷って言うなーっ!」
「はぁ……おとなしくしてるのももう疲れちゃった。だからこれからは、あたしがあんたを一人前になるよう、ビシビシ鍛えてあげる。これからはあたしの言葉に従いなさい!」
 ファニィさんがヒース様の鼻先に指を突き付けます。
「まずは体力付けてらっしゃい。仕事の話はそれからよ」
「ファニィ! おれは……」
「それと!」
 ヒース様の言葉を遮り、ファニィさんはヒース様を助け起こしました。そしてニッと笑い掛けます。
「もう情けない姿晒すのやめなさい。あんた昔っから全然変わらないんだから。好きな子いじめる癖」
「なっ……」
 ファニィさんが掴んでいたヒース様の腕を引っ張って、自分の方へと引き寄せました。そしてツンと唇の先で掠めるような短いキスをします。
 わっ……こんな大勢の前なのに……。
「ファニィ、お前なに……ッ!」
 タスクさんが上擦った声をあげて狼狽なさいます。え、タスクさんが? どうしてでしょう?
「あんたが相手をいじめればいじめるだけ、その子の事が好きで好きでたまんないのはもうバレてるの。引っ越しちゃったあの子とか、ね?」
「う……お、れは……」
「大丈夫、安心しなさい。あたしもあんたが好きだから。今は書面上、あたしとあんたは兄妹だけど、実際の所は他人なんだから問題ないでしょ。あんたがあたしを好きでも、あたしがあんたを好きでも」
「ファニィ、お前ヒースに遠慮とかしてたんじゃ……」
「ああ、それね。してたわよ。だって書面上は兄と妹だし」
 ファニィさんがタスクさんに向かって親指を突き立てます。
「でももう遠慮するのやめる。あたし、ヒースと本気で付き合う事にしたわ」
 ヒース様が真っ赤になって口をパクパクなさっています。ファニィさんの言葉に驚いているようでした。
 僕もちょっと驚きました。姉様は……あまりよく分かってらっしゃらないのだと思います。
「組合の支部で体力付けて戻ってきなさいよ。そしたらあたしがこっちの仕事、ビシビシ教えてあげるから」
「お、お前なんかに教えてもらわなくたって……ッ!」
「自惚れないでよ、能無し!」
「のうなっ……こ、この根性悪女が!」
「その根性悪女の妹に、マジ惚れしてくれちゃってるのはどこのどいつよ?」
「くっ……」
 ヒース様がファニィさんの手を振り払い、逃げるように人垣を掻き分けて駆けて行かれました。ファニィさんはそれを見送ってから、注目を集めるように手を打ちます。
「みんな、こういう事だから、これからはあんまりヒースをいじめないでやってね。あいつの負け犬根性はあたしが叩き直してやるから」
 ファニィさんが高らかに宣言すると、わっと歓声が沸き起こりました。僕は姉様のドレスにしがみ付いて姉様を見上げました。姉様は相変わらずにこにこしていらっしゃいます。
「よーし。これで全部ケリが付いたわね。あ、タスク。談話室に飲み物三つ」
 ファニィさんがウィンクしてタスクさんに飲み物を注文しました。タスクさんはずっと呆けていらっしゃいます。
 確かに僕もちょっと驚きましたけれど、タスクさん、どうなさったんでしょう? ファニィさんの幸せを素直にお祝いできないのでしょうか?
 えへへ。僕が言うのもおかしいですけど、そういうの、ちょっと子供っぽいですね。でもそんなタスクさんもいいと思います、僕。
「ジュラ、コート。行くよ。次の仕事の話だからね」
 ファニィさんはとびっきりの笑顔で歩き始めました。僕は姉様と手を繋ぎ、幸せそうなファニィさんを追い掛けました。
 ファニィさんって、本当に素敵な人です。僕、姉様の次にファニィさんを尊敬します。

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