Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       4

 夏が過ぎて、秋が過ぎて、冬が過ぎる。
 あたしは一つ歳をとって、十九歳になった。年中気候が温暖で、もう目の前に来てる春だけど、まだちょっと肌寒い。
 オウカ冒険者組合の敷地の隣に建設中の、オウカ魔法アカデミー。魔法だけじゃなく、各国言語や古代語や、冒険者としての基礎も学べる、要は冒険者養成所としての施設と言える。
 春には開校の予定だけど、でもすでに入学希望者は予定数を遥かにオーバーしている。講師もあちこちの国から集めた言語学者や、引退した冒険者を揃えて、ここの学長にはヒースがなる予定。
 〝ヒースの方が学ばなきゃならない事があるんじゃないの?〟なんて茶々を入れたら、ヒースは顔を真っ赤にして怒ってたっけ。でもヒースのフォローにコートがいるから、まぁ任せても大丈夫かな?
「うう、今日さっぶい……」
 あたしは上着の前をゴソゴソと併せて、かじかむ手でペンを取る。やん。書類のサインが歪んじゃう。
「ファニィ、講師がまた一人到着したぞ」
「あ、そう。じゃあヒースが寮に案内してあげなさいよ。あたし、忙しいから」
 あたしは執務室の机に山積みになった書類を見て、うんざりしながら溜め息を吐く。
「へぇー。いいのか?」
「何がよ。アカデミーの学長は、名目上はあんたなんだから、講師の世話はあんたの担当でしょうが」
「お前がそれでいいならいんだけど。そっかぁ……そうなのかぁ」

 イラッ。

 何が言いたい訳? あたしは唇をへの字にまげて、コツコツと指先を机に叩きつける。
「そっかぁ。じゃあ俺は一年ぶりに奴と喧嘩でもしてくるか。止める奴がいないから、さぞ大騒ぎになるだろうなぁ」
「あんた心入れ替えて、横柄な態度取るのはやめたんじゃないの? また泣かすわよ」
「あーあ。せっかく〝お兄ちゃん〟が気を使ってやってるのに、それをふいにする〝妹〟の、なんて可愛くない事か。こんな〝妹〟に惚れてる奴の気がしれないな」
「さっきからやたら絡んでくるわね。一体何が言い……」
 あたしがヒースを睨むと、ヒースはにやにや笑いながらあたしの様子を見ている。そしてチラチラと執務室のドアの方へ視線を走らせていた。
 あたしは眉を顰めて机の上の書類の束を片手でちょっとずらし、向こう側を見て……バッと勢いよく立ち上がった。ヒースが声を潜めてあたしの様子を笑っている。
「相変わらずお前は、誰彼構わず不遜で横柄な態度なんだな。ヒースはお前の〝兄貴〟だろうが」
 その憎ったらしい皮肉とか、眼鏡なんか掛けてインテリぶってる様子とか、少し髪が伸びて大人っぽくなった雰囲気とか、そんなのどうでも良かった。あたしは机に足を掛けてそのまま書類の上を乗り越え、〝彼〟に抱き付いた。ヒースの目がある事なんて、この際関係ないわ。
「バカッ! 待ちくたびれたわよ!」
 思いっきり、あたしらしい出迎えの言葉を吐き掛けた。
「校舎が出来上がる頃って約束は守ったろ」
 それはそうだけど……あーもー! 頭の中、滅茶苦茶になってきた。ヒース、トールギーパパも、ちょっとだけどっか行って!
 あたしは嬉し泣きの泣き顔を見られたくなくて、タスクの肩に顔を押し付けた。
「肩は貸してやるけど、鼻水付けるなよ」
「思いっきり汚してやるわ!」
 皮肉を皮肉で返し、あたしは彼に抱き付く両手に力を込めた。

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