Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       3

 ファニィたちを見送るために、親父とお袋、姉貴が正門に集まっていた。朝食の席で急な用事が舞い込んだみたいだが、そっちはもう大丈夫なんだろうか?
 俺はファニィたちを見送ったら、当分は骨折の治療に専念だな。それから俺にできる何か新しい学問か何かを探して……やる事は漠然としてるが山積みだ。
「ウチのサイン入れた通行許可書。これ、ここの統括区の番兵に見せたら自由に出入りできるよってからね」
 姉貴がファニィに自分のサイン入りの通行許可書を渡している。そういや外との出入りが不便なんだよな。来る時も引っかかったし。なんせここって女王のお膝下に当たる区域だから。
「ありがとう、ミサオさん」
 ファニィが大事そうにそれをウェストポーチに入れる。
「ほな、みなさん。あんじょうようやってな」
 お袋の言葉に首を傾げるファニィ一同。あ、通じなかったか。
「元気でなって言う意味だよ」
「ああ! そうなんだ。ありがとうございます。そちらもお元気で」
 ファニィが親父とお袋と握手する。コートとジュラさんが姉貴と。
「じゃあ……」
 ファニィが少し暗い表情をして、だがそれを振り切るように首を振って、パッと明るい顔になった。
「じゃあ、帰ります。お世話になりました」
「こちらこそ、おおきになぁ」
 姉貴がニコリと微笑み、そして親父に目配せした。ん?
「なぁ、ファニィさん。組合の元締めさんにこちらを」
「はい?」
 親父が厚い封筒をファニィに手渡す。
「ええと、依頼料金なら昨日の夜に戴きましたけど……」
「そうやのうて、元締めさんから頂いた手紙の返事ですわ」
 は? 手紙? そんなもの、預かってたっけ?
 俺が昨日からのやり取りを思い出そうとすると、親父がバンといきなり俺の背を叩いた。俺は数歩、たたらを踏む。
「こんなんでええんやったら、更に魔法学、頭に詰め込んでお出ししますて、伝えてくれなはれ」
「は? どういう意味だ、親父?」
 俺もファニィも意味が分からず頭の上に疑問符を並べ立てる。ジュラさんは当然として、コートも訳が分からないらしい。
「あれ? ファニィさん、聞いとりまへんの? なんやオウカの冒険者組合併設で、近い内に魔法学と古代語のアカデミーっちゅうか、総合学問所みたいなん作るから、ジーンから何人か魔法使いやら学者やらを派遣してほしいっちゅう手紙でしたで? 筆頭にタスクを名指しして、ぜひ寄越してほしいゆうてはりましたわ」
 親父の衝撃発言に、俺たちは絶句する。
「そっ……」
「なんだよそれ! 俺、聞いてねぇぞ!」
 魔法学と古代語のアカデミーだ? 元締めもヒースも、そんな事は一言だって言ってなかったじゃねぇか! しかもなんで魔法使いでもなくなった俺の名前を筆頭に……って……魔法使いじゃなくなった……からか?
 俺の脳裏を、あの厳めしい面の元締めがよぎる。その顔はニヤニヤ笑いの、したり顔だった。

 ……やられた……! 完璧にやられた! 一杯食わされた!
 ヒースの口添えか、コートにすら悟られるようなファニィの態度の変化のせいかは分からないが、元締めはどうにか俺を、オウカに残すための策を親父に手紙で打診したらしい。俺のためというより、ファニィのために! ファニィが気に掛ける俺を、オウカに引っ張り込むために!

 ……っんなんだよ、娘にゲロ甘なあの元締めは! 「能力の無くなった者を組合には置いておけん」とかほざきやがったくせに、娘の恋心成就のために俺を騙すとは! というか、自分の補佐であるファニィやコートまで謀りやがった!
 俺は騙された悔しさと、だがそれを上回る嬉しさで、もう笑いを堪えている事ができなくなって、腹を抱えて大笑いした。ファニィも元締めの真意に気付いたのか、俺の肩をバシバシ叩きながら大笑いしている。
 だから痛ぇよ! そっちの腕折ってんだから、力任せに肩叩くな! 響いて痛いんだよ! けどその痛みもなんかおかしい! 笑えて笑えて……ああ、腹痛ぇ!
「ふっざけんな、あの髭親父よ! 粋な事してんじゃねぇよ!」
「トールギーパパを悪く言わないでよ! やる時はやるでしょ、あたしのパパだもん!」
 俺とファニィの馬鹿笑いに驚いて、まだ意味が分からないでいたコートが、ふいに元締めの真意に気付いて俺のベルトを掴む。
「じゃ、じゃあ! あのっ、あの! ま、またタスクさんとご一緒にいられるんですね?」
「ああ! 今すぐは無理だけど、もう一度頭っから魔法勉強し直して、アカデミーとやらの校舎が出来上がったくらいに、オウカに講師として押し掛けてやるよ!」
 〝冒険者〟は無理でも〝講師〟なら。魔法が使えなくなった俺にだって、知恵を貸すという形でファニィの力になってやれるじゃないか! ファニィの傍にいてやれるじゃないか!
「まぁ! ではまたタスクさんのお食事がいただけるんですのね?」
「ジュラさん、俺は講師になっても食堂でバイトが前提ですか?」
「あら、違いますの?」
「ははっ! いいですよ。新メニュー持ってオウカに帰りますよ!」
 なんだってやってやろうじゃないか! 俺で役に立てる事ならなんだってする。それが元締めへの恩返しだし、ファニィたちとまた一緒の生活ができる条件なんだからな。
「行方がはっきりしてるんやったら、ウチらもまたいつでもあんたに会えるやん」
「ご立派な就職だぜ、俺。もう魔術師が、なんて誰にも言わせねぇよ!」
 お袋と親父を見て、姉貴を見て、誰もが笑顔だった。俺を〝魔術師〟として扱わない元締めの懐の深さに、親父たちも感心している事だろう。
「あははっ! じゃあ突貫工事で校舎仕上げて待ってるから、早く帰ってきなさいよ、タスク!」
「手抜き工事はするなよ」
 俺は花が咲くように笑うファニィの額を小突いた。

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