Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


     学び舎が完成する頃に

       1

 朝採れの新鮮なお野菜のサラダに、固ゆでの卵をスライスしたものを添えて。南国らしい少し酸味のあるソースをかけた焼き魚。ライスには食の進む添え物があって、スープは濁りのあるもので、まろやかですけれども少し辛味のお味でお芋が具材ですわ。
「お替わりはなんぼでもあるさかい、遠慮せんとってな」
「ええ、どれも美味しそうですわ。いただきます」
 わたくし、タスクさんのお母様の勧めで、たくさん朝食をいただきましたの。でも途中から少しびっくりなさったお顔をされていましたけれど……わたくし、とてもおなかが空いていたんですもの。ちょっぴり食べ過ぎて、はしたない事をしてしまいましたかしら?
「おいこらコート! 起きろ! お前、味噌汁で顔洗うなよ!」
 昨夜、夜更かしさんしていたコートが、眠そうにこくりこくりしてスープにお顔を浸けてしまいそうになっていた所を、タスクさんが間一髪引き戻しましたわ。
「す、すみません……ジーンの建築についてのお話がおもしろくて、つい遅くまで伺っていて……」
 コートはそう弁明しながら、またおねむさんのお目目ですの。
「姉貴。いくらコートがせがむからって、ガキを夜中遅くまで引っ張り回すなよな」
「なんでウチって分かったん?」
「コートの好奇心を満たせるような知識を持ってるなんつったら、姉貴しかいねぇだろうが」
 うふふ。コートはとてもお勉強が好きなんですの。とてもお利口さんですから、わたくし、姉として鼻が高いですわ。
「あ、これ美味しい」
 ファニィさんがライスの付け合せを、ポリポリと小気味良い音を立てて召し上がっていますわ。
「ファニィ、漬物ばっか食ってたら、後で喉乾いてとんでもない事になるぞ」
 食が進むんですもの。仕方ないですわよね。
「ねぇ、タスクさん。デザートはなんですの?」
「ジーン流の朝飯にデザートは付いてません。あー、お袋。ジュラさんになんかお菓子やっといてくれよ。この人は甘い物胃に入れるまで口閉じないから」
 まぁ、タスクさんたら酷い言い分ですわ。わたくしいつもより遠慮していますのよ。お替わりも七回しかしていませんもの。
 お母様がタスクさんの言葉を受けて、わたくしだけにカップケーキをくださいましたの。クリームがたっぷり練り込まれたカップケーキですわ。とても甘くて美味しいんですのよ。
「タスク。トウチャン会心の佃煮はどや!」
「はいはい、美味い美味い。だから黙って食ってくれ。俺の皿によそうのも、もう結構」
「愛想あらへんなぁ」
 タスクさんとお父様はとても仲がよろしいのですわね。羨ましいですわ。
「ファニィ、出発するなら早い内にしろよ。昼間は日差しが凶悪なくらい強くなるからな」
「へ? あ、うん……分かった……」
 ファニィさんの表情がふいに暗くなりましたわ。でもその原因、わたくしでも分かりますのよ。
 だって……オウカに向けて出発するという事は、タスクさんとお別れなんですもの。もうタスクさんのお料理、もう食べられないんですのね。寂しいですわ。
「……ね、ねぇ。もう一日、ご厄介になっちゃダメかな?」
「駄目だ。お前は組合の補佐官なんだから、とっとと帰って完了報告しろ」
 タスクさんがファニィさんの言葉をぴしゃりと拒絶なさいましたわ。タスクさんって厳しいですわね。
「ぼ、僕……その……も、もうちょっとジーンの建築や魔法について、お話が聞きたいです」
「駄目なモンは駄目だ。お前もとっとと帰って仕事しろ。出てくる前にからくりの設計依頼があるとか言ってただろうが」
「まぁ、タスクさん。酷いですわ。コートは……」
「ジュラさん、オウカに戻ったらファニィがケーキ食い放題に連れてってくれるそうですよ」
「まぁ本当ですの? ファニィさん、急いで帰りませんと!」
「ちょっ、ちょっと! あたしそんな事、言ってないよ!」
 ケーキ食べ放題。素敵ですわ。
 イチゴのショートケーキに、アップルパイ、カボチャのタルトにモンブラン。クリームたっぷりのミルフィーユも捨てがたいですわ。考えただけでうきうきしてきますの。一体何から戴きましょう? わたくし、全部残さず戴きましてよ。

 その時ですわ。ダイニングのドアがノックされて、可愛らしいメイドさんがタスクさんのお父様にお手紙を持っていらっしゃいましたの。
「急ぎの用事か? ちょっと失礼」
 タスクさんのお父様が席を外され、お手紙に目を通されましたの。そしてお母様に耳打ちなさいますわ。
「まぁ……そうなん? ミサオ、ちょっと来なさい。タスクはファニィさんらのお相手しとき。皆さん、ゆっくり召し上がっといてくださいね」
 お父様とお母様、ミサオさんが揃ってダイニングを出て行かれましたの。タスクさんも不思議そうに首を傾げていらっしゃいますわ。
「忙しそうだね。やっぱり早めに切り上げた方がいいかな?」
「女王からの召喚だったりしたら、みんな出払う事になるからな」
「ミサオさんは賢者様だもんね」
 ファニィさんが肩を落として呟きましたわ。
 しばらくしてみなさんが戻ってこられて、お父様がファニィさんのお傍に立たれましたの。
「ファニィさん。みんなでお見送りしたいんで、出発は昼過ぎにしてもろてええですやろか? 暑さ厳しい時にすんませんねんけど」
「え? ええ、構いませんけど……」
 お昼過ぎという事は、こちらで昼食を戴けるんですのね。うふふ。楽しみですわ。今度はどんなメニューが戴けるのかしら?

     19-5top20-2