Light Fantasia オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、 健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー! |
和解 1 タスクさんの作ってくださった美味しいお食事を戴きながら、わたくしは少し憂鬱な気分になりましたの。ですからお食事がちっとも美味しくありませんわ。 ……いえ、お味はとても美味しいのですけれど、なんだか味気なく感じてしまって……ええと、違いますわ。とてもわたくし好みのお味なんですのよ? でも喉の通りが悪い、というのかしら? あら? わたくしどうしてしまったのかしら? 美味しいのに美味しくないだなんて、なんだか上手く説明できませんわ。 「ジュラさん? 口に合いませんか?」 「いいえ、とても美味しいですわ」 「顔が嬉しそうじゃありませんけど? ジュラさんは飯を食う時はいつも、凄く幸せそうな顔をします。でも今日は神妙な顔してます」 タスクさんがわたくしの顔を覗き込んできましたの。わたくし、嫌々なお顔でお食事を戴いていたんですのね。作ってくださったタスクさんに申し訳ない事をしてしまいましたわ。 多分ですけれど……お食事が美味しくないのは、コートもファニィさんも傍にいらっしゃらないからですわ。タスクさんはお話し相手になってくださっていますけれどお茶を飲むだけで、わたくし一人でお食事なんて、とても寂しいですもの。 「ごめんなさいね。コートがいないものですから……」 タスクさんが困ったように頭に手を乗せられましたわ。 「コートは……あー、帰ってきてから、ずっとヒースの看病ですからね。ジュラさんよりヒースを優先してる事が気に入らないんですか?」 「コートはわたくしの自慢の弟ですの。コートはとてもお利口さんで、優しい子ですから、ヒースさんの事が心配なのですわ。でも……わたくし、やっぱりコートと一緒がいいんですの。わたくしがワガママさんなのかしら?」 タスクさんが困ったような顔をなさいますわ。わたくし、ワガママが過ぎましたかしら? 「じゃあ……それ食べ終わったら、一緒に見舞いに行きますか?」 「まぁ! タスクさんがご一緒してくださるんですの? 嬉しいですわ」 わたくしが微笑むと、タスクさんは照れたようにお顔を赤くされましたの。うふふ。タスクさんもファニィさんと同じでとても優しくて、わたくし、お友達として誇らしいですわ。 「そうですわ。ファニィさんもお誘いしませんこと? 皆さん揃った方が、お部屋も賑やかになってよろしいかと思いますの」 「あ、いやそれはちょっと……あくまで見舞いなんで、なるべく静かにした方がいいですよ」 そうですの? わたくしは賑やかな方がいいと思ったのですけれど……。 でもタスクさんがその方が良いと仰るなら、その方がよろしいですわね。 わたくしは考える事がとても苦手で、いつもコートに難しいお話はお任せしていましたのよ。今はそのコートが忙しくていませんから、お傍にいる方のお考えの通りに行動すれば間違いありませんわ。タスクさんもコートと同じくらい頭がよくていらっしゃるから、タスクさんのご指示に間違いなんてきっとありませんわ。 「では急いで食べないといけませんわね」 わたくしが一生懸命早くお食事を戴こうとすると、タスクさんが声をあげてわたくしの手を抑えましたの。 「ゆっくり食ってください。急いで食うと腹に負担が掛かりますから。ジュラさんもまだ病人だって事、忘れないでくださいね」 「でもコートに早く会いたいですわ」 タスクさんは苦笑なさって、わたくしの手を離しましたの。 「じゃあできるだけ〝ゆっくり急いで〟食ってください」 難しい事を仰いますわね。でもわたくし、やってみますわ。 わたくしはお魚を飲み込みやすいように、なるべく小さく切り分けてお口へ運びましたの。うふふ。一口を小さくすれば戴きやすくなって、早くお食事を終えられますわ。名案ですの。 お食事が終わって、わたくしとタスクさんは揃って医務室へ向かいましたの。ヒースさんに付き添っているコートもそこにいるんですのよ。 「コート、入るぞ。ジュラさんもいるから」 タスクさんはドアを数回ノックして、お部屋に入られましたわ。わたくしも静かに続きましたの。 「あ、姉様。タスクさん、も……」 コートは白いカーディガンを羽織ってヒースさんのベッドに腰掛けていましたわ。そしてヒースさんはわたくしたちの顔を見ると、ぷいとお顔を窓の方へ背けてしまいましたの。 あらあら。ヒースさんは相変わらず恥ずかしがりやさんですわね。うふふ。でもわたくし知ってますのよ。ヒースさんは本当は、コートととても仲良しさんなんですの。でもたまにコートに意地悪な事をするので、以前わたくし、ヒースさんをメッして差し上げた事があるんですのよ。それからヒースさんはますます意固地になってしまって。素直でないのですわ。 「ヒース、お前……いつ目が覚めたんだよ」 タスクさんが驚いたようにヒースさんのベッドの傍へ寄りますわ。でもヒースさんは答えませんの。 「ファニィ、呼んでくるか? お前の事、すっげー心配してたぞ」 「あ……えと……ヒース様。どう、なさいますか?」 コートが呼び掛けても、ヒースさんたらお返事しませんの。いけませんわ、そんな小さな子みたいな拗ね方。やっぱりメッですわね。 でも今は。今はコートをいい子いい子したいんですのよ、わたくし。 「コート、いらっしゃい」 「は、はい。姉様」 わたくしが椅子に座って向かって両手を広げると、コートはヒースさんの方を何度か気にしつつ、わたくしのお膝にちょこんとお座りしましたの。 うふふ。コートをこうして抱っこするのは久しぶりですわ。わたくし、嬉しくてコートの頭を何度もなでなでしてあげましたの。 「タ、タスクさん。あの……ファニィさんをお呼びするのは、遠慮していただけますか。そ、その……申し訳ないのですけれど……タスクさんも、姉様も……」 「あ? ああ……騒がしいもんな。悪かった。でもジュラさんは静かにしてるから、しばらく置いてやってくれないか? ずっとお前に会いたがってたから」 タスクさんがお部屋を出て行こうとした時ですわ。 「……コートニス」 「は、はいっ」 ヒースさんが急にコートを呼ぶので、コートはびっくりしてわたくしの膝の上で身を乗り出しましたの。まぁまぁ。危ないですわよ。 「ファニィを呼んできてくれ。それから……お前とジュラフィスが出て行け。ファニィとおれと……タスクで話をさせろ」 「は? なんで俺?」 「黙って待ってろ。クソ魔法使いが」 コートはわたくしのお顔を見上げて、それからヒースさんに向き直りましたの。 「じゃあ、あの……僕、姉様と出てきます。え、えと……少ししたら、戻ってもいいですか?」 「ああ」 コートがわたくしの膝の上から、わたくしを見上げてきましたわ。 「姉様、僕とお散歩に行きましょう。タスクさん、ヒース様をお願いします」 「あ、ああ……分かった……」 タスクさんは複雑な表情でいらっしゃいますわ。 「姉様、ファニィさんを呼んできましょう」 「分かりましたわ」 わたくしはコートの手を引いて、医務室を出て行きましたの。そしてファニィさんを呼ぶために、執務室へと向かいましたわ。 |
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