Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       6

 時間稼ぎするように言われたが、正直言ってかなり辛い。
 熱中症による頭痛はまだ引いていないし、呪文の詠唱時間が短く構築式の簡素な魔法を選んでいるとはいえ、こう立て続けに乱射していると舌は絡まって詠唱失敗するわ、初歩的な構築式を間違うわ……。
 もともと魔法の行使とは精神力を平常時より摩耗させるものだし、休み無く魔法を使い続けると、前触れなくふいに意識を失う事だってある。今、ぶっ倒れでもしたら、それこそファニィの罵声を浴びるどころの騒ぎでは済まされない事態に陥ってしまうから、充分注意して魔法を行使しているんだが……。
「火炎球!」
 杖を振り降ろし、炎の球を放つ。だがそれの射出速度は確実に落ちていた。

 俺の行使できる魔法の命中精度は、広範囲魔法などの大掛かりなものはさほど気にならないんだが、単発で放つものはよほど集中していないと極端に命中率が下がる。
 つい最近までは、俺の能力不足と構築式の暗記が伴っていないからだと思っていたが、実際は俺の魔力そのものが、炎の魔神の呪いだか何だかを封じるために、両親から強い封印を掛けられている事から起因するものだと分かった。
 それらと疲労、熱中症という総合的な弊害によって、もう俺の放つ火炎球程度の低級魔法は、しっかり見極めれば術式を発動させてからでも充分避ける事ができるほど、威力も命中精度も限りなくショボいものとなっていた。もうこうなってしまったら、相手がよほど油断しているか、俺と相手との間合いを限界まで詰めたゼロ距離発動でもない限り、目標にブチ当てる事などほとんど不可能だろう。
 最前線で頑張ってくれているファニィとジュラさんには悪いが、本当の意味で足手まといにしかならなくなった俺は、一時撤退した方がよっぽど二人に貢献する事になる。動けなくなって人質にでもなってしまっては、マジで洒落にもならない。
 俺は魔法の詠唱をやめ、すぐ近くまで迫ってきている盗賊の一人と距離を取ろうと大股で後ろへ下がった。
「タスクさん止まってください!」
 コートの切羽詰った叫び声。珍しく鬼気迫るコートの声に、俺はとっさに足を捻じって斜め横へと重心をずらして跳ぶ。初動の勢いが殺せず、もう完全静止はできなかったんだ。
 と、俺を追ってきた盗賊の足元に突然小さな、だが激しい火柱が上がった。この独特のキナ臭さ……火薬か!
 俺は振り返って、姿勢を低くして自分の鞄にしがみ付いて立ち竦むコートを見やる。
「あ、あのっ……下手に動かないでください! その辺りに火薬、い、いっぱい撒いたので……動くと危ないです!」
「お前の仕業か!」
 コートが子供特融の甲高い声を張り上げ、俺に注意喚起する。
「は、はい! じ、時間によって発破する仕掛けもあります!」
 おいおい。このガキ、ただ逃げ回ってるだけかと思えば、俺が立ち回ってた場所で何を仕出かしてくれてんだか。そんなデンジャラスな火薬や仕掛けがてんこ盛りの、言わば地雷原みたいな場所で、俺が迂闊に炎の魔法なんか使おうもんなら、下手すりゃ完全にこっちに被弾しちまう。
コートは俺を庇いたいのか葬りたいのか、どっちなんだ?
今更だが、炎使いと火薬使いだなんて、味方とするには相性最悪じゃねぇか。
「悪いが俺は一時撤退だ。案内頼めるか?」
「は、はいっ!」
 コートが不自然な迂回やジャンプしながら俺の元へ駆け寄ってくる。
おいおい……お前が避けた二歩目といえば、俺の歩幅の一歩目だろうが……。
 俺が半ば呆れてコートの到着をぼうっと眺めていると、コートが両手を口元へ当てて立ち竦む。
「み、右手に!」
「火炎球!」
 風にそよぐ俺のショールを掴もうとした盗賊に向かって、俺は振り返り様、至近距離からの魔法を叩き込む。だがダメージとなったかについては、首を傾げざるを得ない程度の威力だ。多少の火傷を負わせた程度で炎は消滅する。
 これだけの至近距離なら、命中精度に関してはまだどうにかなるようだ。だがやはり、ゼロ距離発動しかアテにならないらしい。
 あと威力については、もはや目晦まし程度だと考えた方がいいかもしれない。構築式をひと段階上のものに切り替えて魔力を底上げすれば、もう少し使い物にはなるだろうが……これ以上の精神力の消耗を考えたら、ここであまり力み過ぎるのは良策とは言えないな。
「三歩こちら……後ろです!」
 俺の服を掴んだコートが、ぐいと俺を自分の方へと引っ張る。俺は指示に従いながら、たった今、火炎球を放った盗賊に向かって魔法の杖を突き付けた。
「槍よ!」
 炎の槍が地面から突き出てくる。その槍は盗賊の顔を焼いて、俺たちと逆方向へやつを凪ぎ倒した。あっぶねぇ。あと少し反応が遅ければ、俺は背中を斬られていたかもしれない。
頼むからこれ以上、追い掛けてきてくれるなよ。コートの仕掛けた地雷原に怯んでくれれば儲けものなんだが……簡単には引き下がっちゃくれないよなぁ。
 盗賊の周囲には、こいつらを崖上から引きずり下ろすためにさっき放った魔術の蛇がまだ煙となり、実体となり、燻ぶるように蠢いている。こいつらが絶命した瞬間、この蛇どもは魔術の呪詛の言葉にのっとり、盗賊たちの魂を食らう。
「だ、大丈夫……ですか?」
「疲労困ぱい。倒れる寸前」
 俺が肩を竦めて見せると、コートは複雑な笑みを浮かべて俺を見上げてきた。
「……ま、間に合って良かった、です」

 振り返ると、随分ファニィとジュラさんから離れていた。ファニィが俺に時間稼ぎしろと言ったって事は、自分たちの相手を片付けてこっちに加勢してくれるものだと思っていたが、案の定向こうもかなり手こずっているみたいだな。
 盗賊どもは俺たちが予想していた以上に手強い。向こうの攻撃はどうにかかわせるんだが、こっちの攻撃も当たらないんだ。正に一進一退の攻防。フラフラの俺がこのまま戦いを続けていても、勝敗は近い内に決まっていただろう。マジでコートが来なければ、俺はヤバかったかもしれないな。
「がっ……あ……るああぁぁぁっ!」
 炎の槍で顔を焼かれて倒れたはずの盗賊が起き上がり、焼けて爛れた顔をこちらへ向けてなおも向かってきた。コートはその様子に怯えて、俺の服を掴んで目を閉じて恐怖に堪えている。
 皮膚や服の焦げる嫌な臭いで、俺の表情も歪む。至近距離でコートにあんまり見せたくないし、ファニィにも後で怒鳴られるんだが……俺も自分の身が可愛いし、個人的恨みもあるんでね。悪いがあの世へ逝ってもらう。
「溶けろ!」
 炎の魔法でなく、暗黒魔術を放つ。
 盗賊を捕縛するために放った暗黒魔術の蛇の影から、盗賊目掛けて強い酸が飛んだ。酸が盗賊の体に付着し、刺激臭を撒き散らしながら体を溶かし始める。
「ううっ……」
 コートが口元を抑えて小さく呻く。俺はコートの頭に帽子の上からポンと手を乗せて静かに言った。
「目、瞑ってろ」
「……目を、閉じてたら……ご案内、できませ、んっ!」
 コートが今にも泣き出しそうな顔のまま、生きたまま溶かされる盗賊に露骨な嫌悪感を剥き出しにして、俺の服の袖を引っ張った。俺たちが移動したすぐ後ろに、皮膚の半分以上を溶かされた盗賊が倒れる。さすがに絶命しただろう。
 俺はホッと一息吐き、吐き気を堪えているコートの頭を撫でてやった。
「助かったよ、コー……ッ!」
 俺の足首に激痛が走る。見れば、絶命したはずの盗賊の死体が俺の脚に噛み付いている。
 目を剥き、酸で溶けた肉片を顎から滴らせ、もはやそれは人とは呼べないモノへと変化していた。
「チィッ! ミスった! 悪霊が乗り移った!」
 盗賊たちを断崖の上から引きずり下ろすために使った魔術は、生者の生贄を代償に俺の命令に従わせるものだった。その贄が未だに俺から与えられない上に、更なる魔術、つまり全てを溶かし消し去る酸の魔術を発動させたため、悪霊たちが盗賊の死体に乗り移って俺を贄と誤認識して襲ってきたんだろう。
 こうなってしまっては、盗賊の死体を完全に焼き尽くさない限り、悪霊の取り憑いた死体は見境なく生者を追い続ける。
 魔術で扱う悪霊が厄介なのはこの点だ。

 魔術は悪霊の「魂や肉を食らいたい」といった欲望を利用して、黄泉の世界から奴らを呼び出して使役するんだが、魔力を封じられている俺が完璧に使役するにはここいらが限界点であり、これ以上の使役は無理な事だったんだ。二重に重ね掛けする魔術が危険なのは分かっていたが、魔術は潜在的能力でもあるから、魔法より精神力の消費が少ないと、まだ俺でも制御できる範囲だと踏んでいたんだ。が、あまりにも安易に考えすぎていたようだ。
ある程度予測できた事だったのに、俺は一時の怒りの感情に任せてこの厄介な魔術を使ってしまった。せめて最初の黒き蛇の魔術に対する代償を悪霊たちに与え、きちんと一つの命令として完了させておけば、死体に取り憑いて術者である俺を襲ってくるといった事はなかったはずだ。
「このっ……」
 至近距離から弱い魔法の炎を放つが、悪霊の憑いた盗賊の死体は離れない。これ以上威力を上げれば、食らい付かれてる俺まで炎に巻き込まれる。
「タスクさん、来ます!」
 悪霊憑きの盗賊とは別の、まだ息のある盗賊が俺を見つけて全力でこちらへ駆けてきた。
 しまった! 今の俺に二人同時に相手するのは無理だ! 完全に俺の誤算、判断ミスだ!
 せめてコートだけでも逃がしてやらなければと、俺は奴の肩を掴もうと手を伸ばした。
「コート、お前逃げ……」
「……えいっ!」
 俺のすぐ脇に、盗賊がやたら滑稽な格好でスライディングしてきた。いや、頭を残して体が滑ってコケたと言うか……。
「こ、来ないでくださいいぃっ!」
 バコンとすぐ傍で鈍い音が響き、そちらへ俺が顔を向けると、コートが分厚いハードカバーの本で盗賊を一心不乱に殴打していた。目を瞑っているから完全に敵味方の区別がない無差別攻撃。お陰で時々俺の足に噛み付いている、悪霊憑きの盗賊の死体をも殴っている。むろん俺にも当たる。本人は当然目を瞑っていて気付いていない。
 しかしなにせ十歳のガキの腕力だ。そうダメージは通っていない……はずなんだが、手にした獲物はハードカバー。そして角は金属の板で補強してある。ピンポイントで当たれば相当痛い。いろんな意味で。主に屈辱的に。
 こっちに向かってきた盗賊に対し、コートはとっさに例の『何でも入っている亜空間な鞄』からこの獲物を取り出して、突っ込んできた盗賊目掛けてかなりの遠心力を付けてフルスイングしたんだろう。で、本は盗賊の顔面に命中。盗賊は見事に無様に間抜けに顔面にコートの本が命中、体は突っ込んできた勢いを殺せぬままズルリとスライディング。そして地面に大の字の人文字完成。多分、こういう筋書きだろう。

 ……なんつぅか……これ、新しいコントか?

 姿勢を低くして突っ込んできてしまった点が、この盗賊の誤算だな。通常の姿勢なら、チビのコートのスイングに頭が届くはずがない。むしろ危険なのは男の急所。頭と急所、どっちを狙われた方が不幸だったのかは……む……どっちも屈辱的だな。名も知らぬ盗賊、ご愁傷様だ。

 あー……まぁ、とりあえずコート。よくやった。褒めてつかわすから、無差別攻撃で俺の脛に本をブチ当てるのやめてくれ。いい加減、痛い。
「やだっ! 嫌ですっ! 向こうへ行ってくださいっ!」
「痛っ、痛てっ! このクソガキ!」
「……ッ! やだぁ!」
 コートが自分の袖をポンと叩くと、袖口から何かが転がり出てきた。そして指に嵌めた風変りな指輪をシュッと擦り付け、そのままそれを盗賊目掛けて投げ付けた。
 ……って、それ火薬玉じゃねぇか!
 ちょ、ちょっと待て! いや、待ってる暇は無い!
 俺はコートの襟を掴んで慌てて跳んだ。だが足に絡まる悪霊憑きの盗賊が邪魔をして、充分な飛距離が出なかった。
 一瞬耳がキーンと鳴り、鼓膜が破裂したかと思うような破裂音がすぐ傍で聞こえた。いや、感じた。激しい爆発音は聴力の限界を超えて、『聞いた』というレベルで済まされない大音量だったからな。
 轟音と瞬間的な熱風が俺たちを包む。そしてふいに足が軽くなった。

 火薬臭い煙の中に目を凝らすと、黒焦げの人影が二つ、転がっていた。一つは悪霊憑きの盗賊、もう一つはコートに屈辱的にコテンパンにされた盗賊だ。間違いなく、コートの投げた火薬の爆発に巻き込まれたのだろう。実際、俺の服もちょっと焦げている。
「ぐすっ……えぐっ……怖かったですぅ……」
 コートが俺の傍でぐずってやがる。

 俺の使う暗黒魔術をグロテスクだの残酷だのとファニィは責めてくるが、生きた人間に向かって火の点いた火薬玉を投げ付けて火だるまにしてしまうこの小僧の方が、俺より遥かに残酷なんじゃないだろうか? 虫も殺せぬような天使のごとき愛らしい面構えで、悪魔のごとき惨たらしい所業を平然とやってのけ、そして終わってから定型常套句の「怖かったですぅ」と、めそめそ泣いて臆病アピールで知らん顔。
 ……これ、いいのか? この無邪気な爆弾小僧を野放しにしておいて本当にいいのか?

「……完璧に殺ったな、お前……悪霊も吹っ飛んだぞ……」
「ま、まだですぅ……だ、だって僕の火薬……威力は抑えてありますから……」
 これのどこが抑えてるって? 悪霊憑きだった方、明らかに骨までこんがりウェルダンだぞ。でもコテンパンだった方はまだ辛うじて、ピクピク動いてる分、コート流に言えば『抑えて』いたんだろう。
 いや、もう深入りすまい。こいつらが追ってくる可能性は多分もうゼロ。俺がすべきはさっさと尻尾巻いて逃げ出す事。
「……ほら行くぞ。どこ踏めばいい?」
「あ、あの……左四十五度のほうです」
 コートを小脇に抱えたまま、俺はコートの仕掛けた地雷原を何とか抜け出した。
 しばらく身を隠していると、近くで何度か爆発の音が聞こえた。危険察知能力の高いジュラさんが一緒にいるんだし、ファニィたちは爆発に巻き込まれてないだろうが……なんか不安だ。
 俺がかつての地雷原を覗き込むと、煙に巻かれながらファニィとジュラさんがやってきた。

「遅くなってごめん! 無事?」
「僕は大丈夫です。でもタスクさんが……」
「タスクは見た目無事。よし、オッケー。コート、心配したよー」
「あのなぁファニィ……俺はお前みたいに不死身じゃねぇんだぞ」
 熱中症の頭痛と魔法乱射による精神力の疲弊、そしてコートの情け容赦無い目つぶり無差別攻撃を目の当りにした俺は、心身ともに疲れ切っていた。呆れてこれ以上の文句を言う気力もなく立ち上がると、ファニィの腕に細く赤い線が出来ているのが目に付いた。
「……おいファニィ。その線、何の目印だ?」
「あ、これ? 血の跡。油断して背中を取られて腕をばっさり切断されちゃったの。もう繋がってるから平気」
 両手を顔の横で握ったり開いたりして見せ、無事である証明をするファニィ。
 ……相変わらず呆れるほど反則的に不死身な女だな……もはや何も言えない。しかも脇腹にも血痕があり、短剣の鞘を差している足にも腕と同じような血の線が付着している。
「お前……何ヶ所怪我したんだよ」
「えっとー、おなか刺されたのと足に矢が刺さったのと……んー、よく分かんない。しばらく死んでたし。あ、あたしの場合は気絶って言うのかな?」
 ……何も言う言葉はない。あえて一つだけ何か言えというなら、俺、本当にこんな女に惚れて良かったんだろうか?
「タスクさんはお怪我ございませんこと? わたくし、打ち身が出来てしまいましたわ。だって盗賊さんが本気でわたくしに斬り掛かってくるんですもの」
 ジュラさんが擦る細くて綺麗な腕には打ち身どころか傷一つない。
「斬られなかったんですか?」
「わたくし、打ち身はできますけれど、切り傷はできませんのよ」
 あの柔肌で刃を受け止めたのか。しかも本人の主張とは裏腹に、痣一つこさえずに。この人も普通じゃねぇな……分かってたけど。
「こっちは元々本調子じゃない所に魔法の使い過ぎで疲労困ぱい。怪我は噛み付かれた傷と火薬による火傷くらいだ。コートのお陰でこの程度で済んだ」
 ちょっとだけ皮肉を込めて言ったつもりだった。
「ぼ、僕……その……必死で……こ、怖かったですけど頑張って……タスクさんのために……」
 コートは顔を赤くしてもじもじと答える。皮肉は案の定通じていなかった。
「へぇ、コートも戦えるんだ! じゃあ今度からも頑張ってもらおうかな?」
「そ、そんなっ! 僕、怖いですぅ!」
 ファニィの言葉に泣き出しそうな勢いで過剰反応するコート。いや、怖いとかほざいててもお前なら殺れる。絶対。確実に。
「嘘だって。まだコートの出番じゃないよ。もうちょっと大きくなってからね」
 一番要注意人物だったのはコートなんだがなぁ……とりあえず黙っておこう。コートに逆恨みでもされたんじゃ俺、絶対死ぬ。殺される。コートが口にする『必死』とは、相手を『必ず死へ追いやる』という意味だからな。そういう認識に、改めざるを得ない。
「ふぅ……じゃあちょっとだけ休憩して、また頑張ってエルトに向かおう。早くオウカに帰りたいね」
 あ、そうだった。まだ終わってないんだ。エルトに抜ける迂回ルートでオウカに戻るという行程をクリアしない限り、俺たちに終わりはこないんだった。

 はう……また頭痛が……熱も……。
 俺は倒れそうになりながらも、必死に意地だけでファニィに付いて歩いた。二度も倒れるという醜態を晒してなるものか。懸命に最後の一滴まで気力を振り絞って俺は歩いた。
「……タスクさんのためなら……僕、もっと頑張れるかも……」
 コートが両頬を染めながら、天使のごとき愛らしい笑みを浮かべて俺をチラ見してきたが、俺はその視線をかわす気力すらもう残っていなかった。
 もう勝手にしてくれ。

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