運命の日

高校受験当落発表日の前日、ミサの家の前に救急車が停まった。呼んだのは隣の家に住むマサトの母親だ。
マサトが怪我をした? 戸惑うミサは……


 高校の入学試験結果が発表されるのは明日。この生殺し状態がいてもたってもいられない。
 早く結果が分かるといいのに。
 ……あ、いえ、自信があるとかじゃなくて……むしろ自信がないから生殺しなんだけど。
 そうやって進まない時計の針をじっと見ているだけで、気分は滅入ってきちゃう。他の事をしてもすぐにこっちが気になって、気持ちが集中できない。

 ──明日は開門と同時に高校へ結果を見に行こう。
 そう結論付けて、私はお布団に入った。目は冴えてるけど寝なくちゃ。
 必死に寝ようとしていたのに、外はなんだかうるさい。おまけに救急車の音まで聞こえてきた。
 救急車の音はウチの前で止まる。
 「えっ!?」と思って、私は飛び起きる。家族の誰かが怪我でもしたのかと心配になったんだ。
 慌てて一階に降りて行くと、家族のみんなは玄関に集まっている。
「どうしたの?」
 お母さんに聞くと、
「お隣さんだって」
 そう答えた。
 私は冷たい手で心臓を鷲掴みにされた気持ちになる。隣には幼なじみのマサトが住んでいる。もしかしてマサトが……。
 私はつっかけを引っ掛けて、隣家に走った。

「おばさん!」
 マサトのお母さんに詰め寄ると、おばさんは蒼白な顔をして答える。
「明日のことで気持ちが落ち着かないからって、散歩に出かけたマサトが轢かれたの」
 横っ面を張り倒されたような気持ちになった。

 マサトとは幼なじみで、頭の出来も同じくらいで、明日発表の高校にも一緒に受験した。一緒に結果を見に行こうって約束もしていた。
 そんなマサトが交通事故だなんて!

「ミサちゃん、今から病院行くから、ごめんね」
 おばさんは救急車に乗り込む。
 その時救命士の人が、おばさんに聞いたマサトの血液型を無線で病院に伝えているのが聞こえた。
 私は思わず叫んでいた。
「私、マサトと同じ血液型です! 献血とかしたこと無いけど、私の血を使ってください!」
 私の血でマサトが助かるなら、そう思ったのだけれど。
「お嬢さん、ありがとう。彼の血液のストックなら病院に沢山あるから。献血してすぐにはその血液は使えないんだ。気持ちだけもらっておくね。ありがとう」
 救命士の人はそれだけ言い、救急車のバックハッチを閉めた。そして救急車は走りだした。

 私の血液はいらないんだ……。献血とかしたことはないけど、汚れてない血なのに突っぱねられるなんて。
 いつも献血センターでは血が足りない血が足りないって大騒ぎしてるのに、こんな肝心な時に必要ないなんて。
 そういえば血液はあまり長く保存できないって聞いた事がある。そういった理由なのかな?

 私は一人ポツンと残され、肌寒くなって家に戻った。
 明日の試験結果は一人で見に行く事になるのか。マサトと一緒に見たかったのに。

     |top