砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

「砂の棺」完結後の、「誰か」が思い描いた、
叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
北の町・ミューレンでのカルザスとレニーの日常。
そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。


     4

「ホリィさん、他にパルさんの行きそうなところに心当たりはありませんか?」
「パルの知ってる公園やお店には全部行きました。あとはもう心当たりは全く……」
 ホリィアンはカルザスに手を引かれながら、キョロキョロと周囲を見渡している。今にもパルが泣きながら飛び出してくるのではないか、そんな思いから、通りに面する脇道を見ているのだ。
「やはり手がかりは、まるでないのですね……」
 傭兵時代、砂漠に落とした宝石を探せという無理難題を押し付けられたこともあったが、その時はテティスの協力で小さな宝石一つを見つけることができた。ならば彼に頼らねば他に探索の方法はないと考え、カルザスは深層心理の奥にいるはずの〝彼〟に呼びかける。
「……カルザスさん! これ!」
 突然ホリィアンが声をあげたため、カルザスの集中が切れる。テティスに自らの呼びかけは届かなかったらしい。彼にだけ聞こえるはずの『返事《こえ》』はない。
 彼女は何かを持っている。それは小さな靴だった。
「もしかしてパルさんの?」
「そこに落ちていたんです。でも似てるんです」
「ふむ……あまり汚れていませんね。自然に脱げたのなら、本人も分かるでしょうし。でも外的な力によって脱げたのなら……」
「誰かに連れ去られたってことですか?」
 カルザスは重く頷く。
「ホリィさんのような大人でも、誘拐されそうになったんですよ? 子供さんなら尚更です」
「パル……!」
「とにかく、この近辺をもう一度……」
 カルザスがそう言いかけた瞬間、頭上に何かの気配を察した。ホリィアンを庇いながら、長剣の柄に手を掛ける。
「待って! おれ!」
 レニーが建物の上から飛び降りてきた。
「カルザスさん、ちょっと血気はやり過ぎ。おれだから二人の姿が見えたけど、他の奴だったらヤバかったよ?」
「遅れは取りません。それに普通にかたは建物の上から飛び降りてきたりしませんよ」
「まぁ、そっか。で、そっちの収穫は?」
「パルさんのものらしき靴を見つけました」
 カルザスの言葉を聞き、レニーの表情が固くなる。
「いよいよマズいことになってきた。さっきからすっげーヤな予感で、ずっと胸の中ざわついてる」
「何か情報を得られたんですか?」
「パルは連れ去られた可能性が高い。この付近にある、フィックスって奴の家を調べてみる価値はあるね」
「フィックスさん? ホリィさんの知り合いですか?」
 青白い顔をしたホリィアンは首を振る。
「そいつはどうやら、ペド……」
 その時だった。三人が潜んでいる路地の隣の建物から、甲高い子供の悲鳴が聞こえてきた。人々の喧騒が消える夜間だからこそ、聞こえたという程度の声だ。
「パルッ!」
「間違いない! カルザスさんは正面から強行突破! おれは上から行く!」
 言うが早いか、レニーが壁を数回蹴りながら、二階にある窓まで飛び移った。そのまま窓を蹴破って、建物内に侵入する。
「ホリィさんは離れないで!」
 カルザスは正面入り口へと向かい、長剣を鞘から抜き放った。
 神速の一閃──分厚いドアが鮮やかに破られる。
「行きましょう!」
 カルザスはホリィアンを連れ、その建物内に踏み込んだ。


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