LOST PRINCE 「死を意識するなんて何度目だろう?」 スラムで育った少年フェリオは、腕の中で冷たくなってゆく少女を抱きしめながら、そう思う。 豪胆な女性マーシエとの出会いが、 スラムの孤児であったフェリオの運命を大きく変える。 |
デスティン 1 マーシエに対する疑念が発覚した翌日、フェリオが立案した作戦の決起会が予定通り行われた。 フェリオはいつも以上に緊張した面持ちで、王子としての服に着替えて大仰な椅子に腰掛けていた。傍らにはアスレイ、すぐ背後に控えるはマーシエとジョアン、姿を隠すための薄手のカーテンの向こう側、兵士たちの真正面にはヘイン。何度か行(おこな)ってきた決起会と変わらぬ立ち位置だった。 ただひとつ違っていたのは、マーシエの表情が暗いという事か。ジョアンが彼女の真横で目を光らせている事も要因の一つだろう。 「本日新たな奇策を決行するが、異議は認めぬ! 諸君らは精鋭部隊として、恥じぬ戦いへ身を投じよ!」 ヘインが兵士たちを鼓舞する。兵士たちは彼の言葉に従って、オーベルに、つまりは影であるフェリオに敬礼をする。 「さてどこまで殿下の作戦が通用しますかな」 傍らでアスレイが皮肉を口にするも、フェリオはそれどころではない。まさかこんな場所で裏切り行為を成す訳はないだろうが、背後のマーシエが気になって仕方ないのだ。 「ほっほ。聞き流されまするか」 事情を知らないアスレイは、自身の言葉はフェリオに聞き流されたと思い、そのまま黙り込んだ。 壇上のヘインが兵士たちを促し、兵士たちは歓声を上げてオーベル王子を讃えた。フェリオはゆっくり頷いて、片手を挙げて応える。昨日、練習した通りにできて、ほっと胸を撫で下ろす。そしてゆっくりとした歩調で退場した。 すぐさまジョアンが傍に歩み寄ってくる。マーシエも遅れてやってきて、躊躇いがちに声をかけてくる。 「立派だったよ、フェリオ」 「……はい」 ぎこちない短い会話を交わし、フェリオは胃の辺りを抑える。 「やっぱりまだちょっと、緊張します」 「それは仕方ありませんわ。でも随分お顔の色もよろしくて、少しは慣れたようにお見受けいたします」 「ありがとう、ジョアンさん」 ふたりは並んでマーシエのすぐ脇を通り過ぎ、自室へと戻った。マーシエは俯き、つま先を見る。そこへアスレイがやってきた。 「殿下に見放されでもしましたかの?」 「アスレイ師には関係ないよ」 「ほっほ。出すぎた真似を容赦くだされ」 アスレイは可笑しそうにホホと笑いながら退室した。マーシエはいつまでもその場に立ち尽くしていた。 |
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