Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       5

 盗品の取引をしている闇市場へ、タスクとジュラを送り出して丸一日。二人を待ってるだけっていうのはスゴーく暇! 暇過ぎて死んじゃいそう。
 ……あたしの密偵もいるし……見つかって殺されちゃうとか、ないよね? 信じてるよ。
 暇と不安で時間の経つのがものスゴく遅く感じる。危険だからって置いてきたコートだけど、話し相手くらいにはなるんだし、やっぱり連れてくれば良かったかもしれない。
 あ、でもやっぱり危ないよね。それに事ある毎に姉様姉様って不安がるコートを見てたら、あたしまでもっと不安になってきちゃうかもしれない。
 あたしは闇市場から少し離れた岩のすぐ傍に穴を掘って身を隠している。砂がサラサラだから、さっきから穴が崩れてきて、あたしの服の中に細かい砂が入って、くすぐったいやら痒いったらありゃしない。
 まだかなぁ? 早朝に逃げ出してくる手筈だから、そろそろ戻ってきてもいい頃なんだけど。
 あたしはそっと砂漠の向こうに目を凝らす。すると彼方に何か動くものが見えた。タスクたちかしら? それにしてはヨロヨロしてるから、すぐに飛び出して確認するのは危険よね。
 あたしは飛び出したい気持ちをぐっと押さえて、その影があたしの目にはっきり見える位置に来るまで耐えた。

 一つは褐色の肌に黒髪の、もう一つは白い肌に銀髪の。
「あはっ! タスク! ジュラ! おかえり!」
 あたしは二人の姿を確認して、その場から飛び出した。でもすぐ仰天して立ち竦む。
「ど、どうしたの? ボロボロじゃない?」
 二人共、全身傷だらけで服もボロボロ。タスクはともかくジュラまでこんなになっちゃうなんて、何が起こったのか分かんない。
「ファニィさん。わたくし、とても疲れましたの」
 いつでもマイペースで体力も化け物並のはずのジュラが、あたしの姿を見てへなへなとその場へ座り込む。タスクは座り込むジュラを見て、倒れるように自分もその場へへたり込んだ。
「あの、さ……状況がよく分かんないんだけど、説明できる?」
「……半壊」
 タスクが擦れた声で答える。声が涸れちゃったような感じかな?
「半壊って……何が?」
 タスクの言葉を聞いて、何となく、想像が追い付いた。
 でも、ちょっと待って? ジュラの実力は認めるけど、でもたった二人だけなんだよ? あたしの放った密偵入れても四人だよ? 冗談だよね?
「最後の土壇場で……見つかった。お前の密偵二人はやられた。ジュラさんと二人で大暴れしてきて、闇市場半壊させてどうにか逃げてこれた」
 え……やだ……嘘……。
 にわかには信じられない。
「タスクさんたら見境なく火遊びなさってとても悪戯っ子さんですわ。でもわたくしもちょっとだけ本気を出してしまいましたのよ」
「え、え……ええっ!? ちょっと! たった二人でやっつけちゃったのっ?」
 あたしが驚いて声をあげると、タスクがもう限界というようにパタンと倒れた。ジュラもその場でこっくりこっくりと船をこぎ始めている。
 正直言って驚きを隠しきれないわ。まさかたったの二人で強者揃いの闇市場を半壊って、相当運が良くて実力も伴ってなきゃできない事だもの。あたしが今回、偵察だけって指令を出したのも、組合の実力者総出でも応戦は厳しいと判断したからであって……。
 ジュラの実力は熟知してたつもりだったけど、タスクの事もちょっと見直してあげないといけないかもしれない。本人もミサオさんも謙遜もあるとは思うんだけど、炎の魔法しか使えない未熟者って言う割には、いろいろな場面でタスクはあたしの予想以上の働きをしてくれる。魔法使い自体が珍しいオウカでは、タスクの実力は冒険者としては相当上の方なのかもしれない。
 声が涸れちゃうまで頑張ってくれたんだよね。ジュラもこんなになるまでやってくれたんだよね。二人共、ありがとう。

 あたしはタスクの傍に寄って、そっと肩を揺さぶった。
「偉いよ。すごく頑張ってくれたんだよね」
 タスクはのろのろと顔を上げ、でも何も言わずにあたしの膝の上に倒れ込んだ。
「ちょっ……」
「ねむ……昨夜寝てないんだよ……寝かせろ」
「はぁ? 寝てないってどういう事よ? 徹夜で情報収集? こらぁっ! 説明しなさい!」
「も……無理……」
 殴ってたたき起こしてやろうかと思ったけど、タスクは満足そうな顔して完璧に夢の世界に入り込んじゃってた。振り返るとジュラもすやすや寝ちゃってる。
 なんか二人の安らかそうな寝顔見てたら起こすの可哀想になってきちゃった。
 膝の上のタスクの寝顔を見て、あたしは苦笑した。まぁ、今回は大目に見てやるかな。根が真面目なタスクの事だもの。やるべき事はちゃんとやってるはず。それに闇市場を半壊させてきたのは物凄く大きな功績だもの。
「あたしの膝枕は高くつくんだぞ」
 タスクの額を小突いてやるけど、タスクは起きなかった。あははっ、しょうがないなー、二人共。
 二人が起きるまでまた暇だし、あたしは動く事もできなくなったけど、でもあたしは二人の無事な姿を見てるだけで嬉しくなってきて、ずっと頬が緩みっぱなしだった。

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