Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


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 コートのお仕事が終わるのを待っているの、わたくし、本当はとても苦手ですわ。でもコートはお利口さんでとても頑張り屋さんなんですの。わたくしだけが我が儘を言っていてはいけませんわね。わたくしはコートの姉ですもの。
 ですから今日はちょっとだけ、いつもよりトレーニングを頑張ってみましたの。そうしたら、わたくしのお相手をしてくださった皆さんは、すでに息も絶え絶えに、鍛錬室の思い思いの場所でおやすみなさってますわ。
 うふ。みなさんまだお若いのに、だらしがないですこと。わたくしはまだまだ元気ですのに。

「姉様」
「まぁ、コート! お仕事は終わったんですの?」
 わたくし、コートが迎えに来てくれた事が嬉しくて、すぐにコートに駆け寄りましたわ。
 コートは浮かない顔をしたまま、わたくしのドレスの裾を掴みましたの。
「あの……ファニィさんが……」
「ファニィさんがどうかなさって?」
 コートは小さな手をグーにして、口元に当てましたの。難しい事を考えているか、困っている時の仕種ですわ。
「あの、いつものお辛い日です。でも今日は急にご気分が悪くなったと仰られて」
「あら大変ですわね」
 わたくしはコートの手を握りましたの。
「もうお部屋には戻られて?」
「いえ、まだ……」
「そうですの。ではわたくしもご挨拶してこなくてはいけませんわね」
 ファニィさんはわたくしの大切なお友達でお仲間ですもの。大切な方が困ってらしたら、わたくしに手伝える事は何でもして差し上げたいですわ。

 わたくしはコートの手を引いて、執務室の少し先にあるファニィさんのお部屋を目指しましたの。道すがら、コートがわたくしを見上げてきましたわ。
「僕、今夜はこちらに泊まります。だから姉様、申し訳ないんですけど、姉様は一人でお部屋に戻っていただけますか?」
「寂しいですけれど、ファニィさんが大変ですものね。仕方ありませんわ」
 ファニィさんが体調を崩されている時は、コートがファニィさんのお仕事の代わりをしていますの。ですから一緒にいられないのは仕方ありませんわ。
「あっ! で、でもタスクさんが夜に特別なお食事を用意してくださるそうです。だから姉様、お一人で大丈夫ですよね?」
「まぁ特別なお食事ですの? 嬉しいですわ」
 わたくし、なんだかうきうきしてきましたわ。特別なお食事だなんて。わたくし、食べる事は大好きですのよ。とても嬉しいですわ。
 ファニィさんのお部屋をノックすると、ファニィさんの苦しそうなお返事が聞こえましたわ。わたくしは少し心配になって、なるべく音を発てないようにそっとドアを開けましたの。
 するとファニィさんはぐったりと椅子に深く腰を下ろしたまま、ゼェゼェと肩で大きく息をしていましたの。
「お辛そうですわね」
「う、ん……今回キツイ。よっぽど綺麗な満月なんだね」
 ファニィさんは青白いお顔で、でも健気に笑顔を作ってわたくしに見せてくださいますわ。
「ジュラ、悪いけど……コート借りるね」
「大丈夫ですわ。コートはお利口さんですし、わたくしも、もう一人でお留守番できるようになりましたのよ。ファニィさんは安心してお休みになってくださいましね」
「ん、ありがと」
 ファニィさんがポケットから補佐官の印をコートに差し出しましたわ。コートはそれを両手で受け取りましたの。
「あたしの机の、右端に置いてある書類はそのハンコ押すだけにしてある。他の緑のラインが入った書類は一通り目を通しただけだから、悪いけどサインとハンコの両方をお願い」
「はい、分かりました。ファニィさん、もうご無理なさらないでください」
「うん……」
 ファニィさんはお辛そうに椅子の背もたれを杖にして立ち上がり、ベッドへ向かいますわ。そしてその更に奥に作り付けてある、小さな扉を開きましたの。
「……あ、コート。今回、鍵、一個多めに付けといて」
「分かりました」
 ファニィさんはそう仰って、その小さな扉の中に入って内側から扉を固く閉ざしましたの。そしてコートはその扉に鎖を掛けて、更にたくさんのお手製の錠前を付け始めましたわ。
「……えっと……あ、姉様。この閂を抜けないように曲げていただけますか?」
「これですの?」
 わたくしはコートに指示された通り、一番大きな錠前の閂を折り曲げて動かなくしましたわ。でもこうしてしまったら、わたくし以外には開けられなくなってしまうのではないかしら?
 ええと……でもこれでいいのですわよね? ファニィさんは〝錠前を多く〟と仰っていましたもの。絶対に〝自力で出られないように〟したいのだと思いますわ。
「これで大丈夫です」
 コートは全ての錠前の鍵を掛け終えて、鍵束をポッケに仕舞い込みながらわたくしを見上げてきましたの。
「じゃあ僕はファニィさんのお仕事のお手伝いを終わらせてきます。夕食の時間になったら姉様を呼びに行きますので、姉様はまた鍛錬室か、図書室でご本を読んでいていただけますか」
「分かりましたわ。ファニィさんが元気になったら、また一緒にお食事しましょうね」
「はい」
 わたくしはコートを連れてファニィさんのお部屋を出ましたの。
 ファニィさん、早く良くなるといいのですけれど。

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