Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       3

 ファニィさんとお料理人さんが、ちょっと派手なお遊びを始めてしまって、わたくしはゆっくりお食事ができなくなってしまいましたわ。せっかく美味しいお料理ですのに。
 でも大丈夫ですのよ。ついさっき、全部美味しくいただき終わりましたの。コートが残してしまった分も、わたくしがちゃんと責任持って美味しくいただきましたわ。次はデザートですわね。
 唇に付いたソースをナフキンで拭ってから、わたくしはコートに話しかけようとしましたの。でもコートはいなくなっていましたわ。
 あら? ついさっきまで傍にいましたのに。
「まぁコート。どこへ行ってしまったんですの?」
 テーブルの下を覗いても、お皿を裏返してもコートはいませんわ。忽然と姿が消えてしまったんですの。
 大変ですわ。コートったらもしかして、わたくしを置いて一人で美味しいデザートを食べに行ってしまったのかもしれませんわ。
 もう、コートったら酷いですわ。わたくしに内緒でそんな抜け駆けをするなんて、見つけたらメッて怒って差し上げますわ。愛の鞭ですのよ。

「ヘラヘラ避けるな! 当たれよ!」
「イヤよ! 誰が好き好んで燃やされなきゃなんないのよ!」
 ファニィさんとお料理人さんがとても大きな声でお話ししていますの。
 まぁまぁお二人とも威勢がよろしい事。若い時はそうでなくてはいけませんわ。
 でもわたくし、一人で待っているのも退屈ですわ。どちらかの応援でもしていましょうかしら? でもどちらの応援をすればよろしいのかしら。
 ファニィさんはわたくしのお友達ですし、お料理人さんは美味しいお食事を作ってくださるし。どちらか一人だなんて罪作りですから選べませんわ。
 そうですわ! コートなら的確な意見を言ってくれるに違いありませんの。わたくし、名案を思い付いて嬉しくなってしまいましたわ。
 にっこりしながら傍にいるはずのコートに話しかけようとして、コートがいない事に気付きましたの。
 あら? ついさっきまでは傍にいましたのに。
 テーブルの下を覗いても、お皿を裏返してもコートはいませんわ。忽然と姿が消えてしまったんですの。
 大変ですわ。コートったらもしかして、わたくしを置いて一人で美味しいデザートを食べに行ってしまったのかもしれませんわ。
 もう、コートったら酷いですわ。わたくしに内緒でそんな抜け駆けをするなんて、見つけたらメッて怒って差し上げますわ。愛の鞭ですのよ。
 あら、おかしいですわね? なんだかつい最近も同じような事があったような気がしますわ。

「女だから手加減してやってりゃ、いい気になりやがって!」
「手加減なんかいらないわよ! 本気でかかってきなさいよ! それともそれがあんたの実力? ふふん!」
 まぁ、ファニィさんとお料理人さん、どちらも威勢がよろしいですわ。若い方はこうでなくては……って。あら? これも何だかつい最近、同じような事があったような気がしますわ。
 わたくし、ちょっと混乱してしまいましたの。
 難しい問題を考える事はいつもコートに任せてしまっていますけれど、コートは今、傍にいませんし。どうしましょうと迷っていた矢先、わたくしが座る椅子の側にどなたかが立たれましたの。
 見上げれば、その方は組合の元締めさんではないですか。元締めさんの背後には、ぐすぐすと鼻を鳴らして泣いているコートがいますの。
 まぁ元締めさんたらコートを泣かせたんですの? でしたらわたくし、許しません事よ。

 わたくしが元締めさんに文句を言おうと口を開きかけた時ですわ。元締めさんがテーブルを思い切り叩いて声を張り上げましたの。
「ファニィ! タスク・カキネ! お前たちは組合を破壊する気か!」
 元締めさんの大声に、わたくしはびっくりして耳を押さえましたの。それだけとても大きなお声でしたのよ。
 元締めさんの声で、ファニィさんとお料理人さんはお喋りとじゃれ合いをやめましたわ。
ファニィさんなんて、叱られた子供のように一瞬でしゅんとなさってますの。うふふ。ファニィさんもお父様の躾には子供らしくなるのですわね。
「だ、だってこいつ、あたしをクソアマって……」
「いい気になるな! 自分勝手で傍若無人な補佐官など、その内誰も信用してくれぬようになるぞ! お前はもっと自分の立場をわきまえろ!」
「……ぐう……むうう……」
 ファニィさんはとても渋い顔をしてまだ何か言いたげに元締めさんを見ていますの。でももう何も言えないみたいですわ。
 不貞腐れたように頬を膨らませて、そんなお顔をしていたら可愛らしさが半減しますわよ。
「タスク・カキネ。室内で火炎魔法を使うなど、正気の沙汰とは思えん。今回は見逃すが、次に何か不祥事を起こせば一生厨房でタダ働きさせるぞ!」
「うっ……すみません、でした……」
 お料理人さんは顔を赤くしてぺこりと頭を下げましたの。あらあら、素直に反省のできる殿方は好感が持てましてよ。わたくし、そういう素直な殿方は好きですわ。
 涙ぐんだまま、わたくしの傍へ戻ってきたコートを膝の上に抱き上げ、わたくしはコートをいい子いい子してあげましたの。
「コートはお利口さんですわね。お二人とも元気があって賑やかだとは思いましたけれど、ちょっと声が大き過ぎて耳が痛かったんですの。コートは元締めさんを呼びに行ってましたのね」
「姉様。ファニィさんとタ……タスク、さん……は、その……喧嘩してらしたんです。だからやめてもらおうと思って僕、元締め様を……」
「まぁそうでしたの? 喧嘩はいけませんわ。喧嘩両成敗ですのよ」
 コートはわたくしの気付かなかった事に気付いて、元締めさんに対処を求めに行ってたのですわね。わたくし、とてもお利口さんな弟を持って鼻が高いですわ。
「二人とも、ここの片付けを済ませてからワシの執務室へ来なさい」
 うふふ。元締めさんのお説教ですわね。元締めさんのお説教はとても長いんですのよ。きっとお尻が痛くなるまでこってり叱られますわね。
ファニィさんはすっかり肩を落として床で割れているお皿のかけらを拾い始めましたわ。お料理人さんもご自分で焦がしてしまった壁を雑巾で拭き始めて。
 今、気付きましたけれど、この様子を黙って見てらした組合の皆さんもほっとした様子で食堂を離れ始めましたの。
 全てが丸く収まって良かったですわ。これで安心してわたくし、お夕飯がいただけますの。
 あら? でも食堂がこんな状況でしたら、わたくしはどこで食事をすればいいんですの? お夕飯までにお掃除が終わるのかしら? 困りましたわね。

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