Light Fantasia オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、 健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー! |
奪還作戦 1 ジーンって国は熱帯地方だから、オウカを出てからジーンに近付くに従って気温はぐんぐん上昇してくる。ある程度覚悟はしてたつもりだけど……やっぱ暑いなぁ……。 あたしはちょっとウンザリしながら、額に滲む汗を手の甲で拭う。うわ……手がベタベタして気持ち悪い。やっぱりちゃんとタオル使えば良かった。 「ねぇ、ファニィさん」 ジュラが声を掛けてくる。 「コートが疲れたと申してますの。休憩にしませんこと?」 コートを見ると、コートは暑さでちょっとだけ頬を赤くしてたけど、でも疲れてませんという風に首を振った。 これはいつものやつね。コートがジュラを気遣って手を引っ張るかして呼んだのを、ジュラが勝手に、コートが疲れたと勘違いしちゃうパターン。 「確かにちょっと疲れたわね。まだ先は長いし、休もうか」 あたしは背の高い木の影に入り、今度はちゃんとタオルで汗を拭く。そして何気なくタスクを見た。 「……ねぇ、タスク」 「なんだ? 水ならジュラさんに預けてあるぞ」 「そうじゃなくて」 あたしは額に手を置いて、深々と溜め息を吐いた。 「……あんた、それ……暑くないの?」 タスクの服を見て、あたしはしみじみと呟いた。 詰襟の長袖上着にスラックス。肩には薄手とはいえショールを付けてるし、腰には魔法使いのローブみたいなビラビラした布。はっきり言って、見た目が暑苦しい見苦しい鬱陶しい。 「いんや、別に? まだこの辺は涼しいし」 「涼しいですって? ジーンの人間って、気温に鈍感なんじゃないの? 見てて暑苦しいのよ、あんたは!」 「だからこの辺はまだ涼しい内だっつってるだろうが! 本土に入りゃ、もっと暑いぞ!」 タスクはそう反論してから、コホンと咳払いした。 「まぁ、お前が言わんとしている事は分かる。だけど肌に直接日差しが当たる方が辛いぞ。薄手の何かを羽織っておいた方がいい」 「……日焼け防止、ですか?」 コートも今回ばかりは、いつものケープは外して半袖の服を着ている。コートのいつものダブダブの服は、袖の内側に火薬玉仕込んである武器保管兼用だもんね。 この子、はっきり言って歩く火薬庫だから。 「それもある。ジーンの昼間の日差しをまともに浴びてたら、日焼けどころの騒ぎじゃねぇぞ。火傷すっから、素直に俺の言う事聞いとけ」 「えー……暑いなぁ……」 「じゃあお前は一人で焦げてろ。どうせ死にやしないんだから」 ムッ……なによ、その言い方。簡単に死なないのは事実だけど。 あたしはムスッとしながらも、荷物の中から長袖のシャツを取り出した。コートも同じように、自分とジュラの分の上着を取り出している。素直だねぇ、コートは。 「うー、汗で腕に貼り付く感じがヤだなぁ」 「我慢しろ。日が落ちれば少し風も吹くから」 あたしはタオルでパタパタと顔を煽ぐ。あたしでこんなじゃ、ラシナ出身のジュラとコートは相当参ってるわよね。寒いのには強いけど、暑いのには弱い民族だし。 「ジュラ、コート。あんたたちはいつもより多めに水飲んでおきなさいよ」 「は、はい」 あたしの言葉に同意するように、タスクも黙って頷いていた。 「コート。ここからラーモルの町までどのくらいかかりそう?」 「は、はい。ええと……みなさん、暑さで少し体力の消耗も激しいですし、いつもより歩く速度が遅いので……夜中になってしまうかもしれないです」 「ふむふむ……じゃあ奇襲は明日の夕暮れからって事にするわ。半日休めば、暑さにも体は多少は慣れるでしょ」 オウカからずーっと歩いて疲れてて、休憩も無しに奇襲をかける馬鹿はいないわよね。あたしは顔を煽ぎながら、それとなくみんなから少し距離を取った。そして小さな紙片にメモを書き、ウェストポーチの中にこっそり潜ませておいた小鳥の足にそれを結び付けて空へ放った。 狭い所に閉じ込めちゃっててごめんね。 空に舞い上がる小鳥を見送るあたし。 「……ファニィ、今の鳥は?」 ギクッ! 背後でいきなりタスクの声が聞こえて、あたしは思わず体を硬直させた。そしてゆっくり振り返る。 「何の事?」 「今、お前が飛ばした鳥は何だって聞いてるんだ」 ええとええと……。 「ここにいたのよ? 触ろうとしたら逃げちゃったけど」 タスクは訝しげな表情をしつつ、でも無理矢理納得するように口をへの字に曲げた。 「ほーら! もう休憩終わり! 先急ぐわよ!」 タスクの背を押してジュラたちの所へ戻りながら、あたしは空を旋回するさっきの小鳥をチラリと見た。 |
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