Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


     コートニス・グランフォート
     ジュラフィス・グランフォート

 新しいからくりの設計図を描きながら、僕は窓の外を見ます。太陽が随分傾いて、もうすぐ夜になってしまいそうです。
 いつもならそろそろファニィさんが、僕と姉様を夕食へ誘いにいらっしゃる頃なのですけれど、今日は少し遅れているようです。でもこういったことはよくあります。おそらく組合で急ぎの用事でも入ったのだと思います。
 それでしたら僕のすることは一つだけです。ファニィさんがいらっしゃるまで姉様の空腹を紛らわせておくこと。姉様は食事には少し執着心が強い方なので。

 僕は設計図を急いでキリのいいところまで描き上げ、組合の図書室にいらっしゃる姉様の元へと行きました。姉様は静かに読書中でした。
「姉様。僕、姉様とお話をしにきたのですけれど、お邪魔でしたか?」
「まぁコート。もう今日はコートのお仕事は終わりですの?」
「はい大丈夫です。終わらせてきました」
 姉様は藍色のドレスの裾を摘まんで僕に歩み寄ってきます。そして僕は軽々と持ち上げられてしまいました。
 僕が標準よりずっと小柄だということもありますが、姉様はとても力持ちなんです。
「コートは本当にお利口さんね。でもわたくしも今日はとても頑張りましたのよ。ほら、あのご本、今日は三ページも読んでしまいましたの」
「それはすごいです、姉様」
 僕が笑うと、姉様も嬉しそうに微笑まれます。
姉様が途中で飽きもせずに『絵本』を三ページもお読みになるなんて、姉様は姉様なりに僕のお仕事に対して気を使ってくださっているのですね。僕、とても感激です。
「姉様は今日、どんな本を読まれたのですか? 僕にも教えてください」
「うさぎさんが鳥さんとお話しする本でしたわ」
 姉様が僕を抱き上げたまま、さっきまで読まれていた本を拾い上げます。対象年齢三歳向けの、とても可愛らしいタッチで描かれた絵本です。
 この図書室には対象年齢の低いかたに向けた本はあまり無いのですけれど、組合の補佐官であるファニィさんが気を使って何冊か用意してくださっているのです。それらはほぼ姉様専用です。
「ほら、ここですのよ。わたくしが読んでいたのは」
 姉様が嬉しそうに先ほどまで読まれていたページを広げます。
「すごいですね、姉様。じゃあ明日は続きを読んで、また僕に教えてくださいね」
「もちろんですわ、コート」
 姉様は椅子に座り、僕を膝の上にちょこんと座らせます。えへへ、僕の定位置です。

 姉様はとても朗らかでのんびりしていらして、僕にとってはかけがえのない大切な姉様です。でもファニィさん曰く、 “手の付けられないほど頭の中がお花畑” と肩を竦めて仰るのです。確かに姉様は世間と少しだけズレていることは認めますが、僕は姉様の纏ったほわんとした空気、落ち着いてとても好きなのですけれど……変わってますか?

「そういえばコート、大変ですわ」
「どうされたのですか?」
 姉様がいつも優しい表情を少しだけ険しくして、唇に指先を当てて僕に言いました。
「鳥さんと言えば、わたくし、すっかりおなかが空いてしまいましたの。そうですわねぇ……赤鳥の照り焼きが食べたいですわ」
 あっ……!
 姉様に動物の絵本を渡したのは僕の選択ミスでした。動物といえばお肉が食べたいという、姉様の食欲中枢をダイレクトに刺激してしまう選択だったのです。
「あの、えと……ファニィさんは今日、組合のお仕事がちょっと忙しくて遅れていらっしゃるみたいなんです」
「まぁそうなんですの? でも困りましたわ。わたくし、とてもおなかが空いていますの」
「ですからファニィさんがいらっしゃらないと、僕では夕食は……」
「コートもおなかが空きましたわよね? どうしましょう。わたくし、おなかと背中がくっついてしまいそうですわ」

 一度空腹を訴え出した姉様に静かにしていただくには、何か召し上がっていただくしかありません。ファニィさんにいつも甘えさせていただいている僕では、姉様を満足させるような真似はとても出来なくて……。
「大変ですわ。赤鳥さんがわたくしに食べられたいと仰ってますの。ほら、コートも見えますでしょう?」
 たった今まで読んでいた絵本の鳥を指差し、姉様が僕に同意を求めてきます。
 ええと……確かに絵本の鳥は赤っぽい色で着色されていますが……ど、どうすれば……。
 ……食堂の注文、僕一人でお願いした事はないですけど、どうすればいいかなら、いつもファニィさんを見ているので分かっています。ちょっとドキドキして怖いですけれど、頑張ってみようかな。姉様を困らせるなんて僕、とてもつらいですし。
「わ、わかりました、姉様。僕がお料理を注文してみますから、食堂に行きましょう」
「まぁ! コートはなんてお利口さんですの! ではさっそく赤鳥さんをいただきましょう」
 姉様はにこにこ微笑んで僕の手を引いて食堂へ向かいました。

僕、本当に一人でできるでしょうか……食事の注文……。

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